アーメン。組んだ両手を額にあてて、この夜に感謝しますと神様にお祈りをしていました。わたしはそうすることの罪深さをよく自覚しています。ですがお祈りをする海賊がいてもいいと思うのです。成仏したなら地獄行きでしょうか。信じるものだが救われぬ。

「ぶわはははは」
「そんでよぉ、アイツ『あ、出ちった』とか言ってよお」
「ヒーあほすぎる!」
「もうマジギレだぜ、おいおいおい出ちったじゃねぇーよ出ちったじゃ」

甲板へ向かう窓。その外を見上げるわたしの背後には、この広いモビーディック号のメインダイニングにちゃっかりとクッションを敷き詰め、夜更けまで、もしくは明け方まで酒盛りをしようと息巻く方たちが数名いました。どうやらサッチさんに向かって、誰かがオナラを嗅がせてあげようとパンツまで脱いでお尻を向けて下さったのに、なんと出してみればそれは気体ではなく個体だったそうなのです。

「それで、そのあとはどうしたんですか」
「なまえ、お祈りはすんだのかぁ?」
「もうすっかり」

振り向いてきちんと座り直すと、サッチさんはスコッチウイスキーに氷をおとしてわたしにくださいました。

「どうもこうもよ・・・『誰か紙くれー!』って叫んだぜおれは」
「ちゃんと拭いてやったのか?」
「なんでおれが拭いてやらにゃいけんのだ」

愉快な方たちです。これが本当の尻拭い、呟くとみなさんが、更にどっと沸きました。最近になってからですが、わたしたちは毎夜こうしてひっそりと、お話に華をさかせています。真夜中はとうにすぎ、夜明けが近づいてきたころでした。タン、タン、と廊下から足音がきこえます。

「誰かきたな」

ガチャ、とノブが回りました。姿を現したのは旅支度を整えたエースさんです。サッチさんは「おいおい」と深く息をつきました。わたしは胸騒ぎをよそに久しぶりに彼に会えたことが少し嬉しかったです。エースさんはこのところずっと部屋に閉じこもっていたから。

「サッチ・・・なまえ・・・」
「おう」「はい」

わたしたちは、明後日の方向を向いているエースさんを見上げました。エースさんは俯いて、帽子を目深にかぶり直すと硬く握った拳を見つめて、言いました。

「・・・仇はとってやるからな」

静まった船内に、「ばかだなあ」と囁くようなサッチさんの声が静かに響きます。でもその声が、エースさんに届くことはありませんでした。エースさんの目に映るのは、誰もいないメインダイニング。わたしは胸の深いところが痛み、ラム酒を一気に煽りました。

「もう朝だな」

誰かが呟くと、みんな一斉にまた明日、とお酒を飲み干しました。一人また一人と影が薄くなっていく中、わたしは船を後にするエースさんの背中を見送りながら、もう一度お祈りのときのように両手を組みました。こんなに切ない罰が、かつてあったでしょうか。海の亡霊となってしまった身で、まったく罪深いお願いですが、声も届かなければ彼を止めようもないのです。抱きしめることもできないし。ああ神様、どうかご慈悲を、彼にご加護を。






神さま






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