※エースのチラシ裏より、抜粋


3rd-May-16XX

今夜は嵐だ。大しけやら海獣やらでクタクタになっていたところを、先に休んでいたヤツらと交代して、まだ大丈夫だと気張って見せるなまえを無理やり船内に引きずった。本当あいつってばかじゃねえか。真っ暗な船内で(揺れるから火は全部消した)、なまえはなんつうか複雑な顔をしていて、不安になった。なまえはよく、嵐や雷が降ると真っ暗な部屋で、毛布を頭からかぶって海を見てる。今日もそれだった。前に一度、雷こえーのかときいたら、あんたと一緒にしないでと怒られた記憶がある。いつもはなんとなく傍に居たけど、今日はなまえが、口を開いた。知りたいと思っていた昔のことを、教えてくれた。長いから、飛ばしてもいいぜ。


なまえの育った小さな島は、革命軍と近衛兵との戦場となったらしい。島民は長い間圧政に苦しんでいたから、革命軍があれよあれよという間に支持を得た。戦争が終わったと同時に嵐がやってきて被害は最高潮に拡大したという。やっと解放されるって、みんな地に足がついてなかったんだ、ハリケーンの予兆だけは絶対見逃しちゃいけなかったのに、となまえは言った。漁港へ行ったきりの母親を探しながら、思いからだを引きずって一週間歩き回り倒れた。意識が戻った時には、生き残った数人と、壊滅状態の島しかなかったという。


それからなまえは、漁業の航海術を頼りに島を出て、ずっとひとりで各地を転々としていた。島には、居れなかったと言った。どうしても孤独を感じてしまうからと。逃げ出したのに、ひとり旅なんて、やっぱり孤独でしかなかった、とも。ギクリとした。自分に寄り添ってくれるひとに飢えていた。必要とされたかった。誰の話なんだか。小さな声で、ポツリポツリと語ったなまえ。出会った日、どうして誘ってくれたのかときかれて、返答に困った。面白そうだと思ったし、ほっとけないとも思った。帰る家がないのなら一緒にきたらいい、というのは都合のいい建前で、どれも決定的な理由ではなかった。俺もおまえと同じなんだとは、言えなくて。なまえを、連れてきてよかったと思う・・・今となっては。

一通り話し終えたなまえは、最後にありがとうと言った。







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「・・・覚えてるか?」

船が大きく揺れて、稲妻が光る。なまえが何を?という顔でこちらをみた。

「初めて会った日、おまえ食い逃げは嫌だって言って酒場にいたほとんどのオヤジからポーカーで金巻き上げて」

ああ、そんなこともあったね。なまえは懐かしそうに首を傾げた。

「おれは食い逃げよりタチ悪りぃと思った」

たしか、『こんなに堂々と店を出たのは、人生で初めてかもしれない』というおれに、なまえは『おまわりさーんこの人です』なんて言って呆れていたっけ。

「でもさあ、ズルとかしてないし」
「だけどロイヤルストレートフラッシュなんておれは初めてみたぜ」
「ふふふ」

・・・あの、スペードのカードたち。Aから10のトランプカードが、気持ちよくテーブルに叩きつけられたのを思いだす。『巷ではトランプの女神って呼ばれてるから』なんてなまえが言うから、おれは思わず吹き出したんだよな。こいついいなって、思った。

「しようぜ」
「え、ポーカー?いま?」

っていうか、嵐だし、真っ暗だし、と目を瞬かせるなまえをよそに、サイドテーブルの上に散らばっていたカードに手を伸ばした。

「勝つぞー」
「ほんとにやるの?ふたりで?」
「よぉし、罰ゲームありにしよう」

おれがカードを切りはじめると、いよいよ観念してやる気になったのか、「わたしを誰だと思ってるの?」と笑顔のなまえは言った。・・・そうだな。あの日を、あの日のなまえを、おれはたぶんいつまでも覚えてるんだろうな。なまえ。









知ってるよ。女神さまだろ。







おれが見つけたんだ。














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