六畳くらいの部屋だ。ベッドがひとつ、イスがひとつ、書き物用の机、チェストとサイドボード、全部ひとつずつ。やっぱりひとつしかないランプが淡いだいだいにおれたちを染めていた。マルコやサッチ、なまえ。
カラン、と誰かの酒の中で氷が鳴った。床やベッドに腰掛け、壁にもたれながら、丸くなり。おれたちはいろんな話をする。散々きいたような昔話をかつてないように笑ってみせたり、やっぱり愛おしんだり。くだらない悩みをこどものように深刻ぶって打ち明けたり、毎晩みる悪夢のような過去に、一緒に泣いたり。
静かに密やかに、この世の目を盗むように。おれたちは身を寄せあって、語り合う。優しく、柔らかく、甘い夜をわけあう。
何も気にしない。おまえたちが誰なのか?誰も知らない。おれたちはどこからきたのか?この春は終わらない。そう、終わらなければいいのに。永遠だったらいいのに。たとえままごとだって言われてもさ。
おれはそのためなら死んでもいいよ。
見返りを求めたりしないおまえたちは、そっと誰かの心をすくいあげて、礼をされたならこう言うんだ。他の誰かに返してやれと。
ここが墓場になるのか天国になるのかはわからない。おれたちは義賊でもなんでもないが、どこの誰よりも人間でありたい。海賊とは人間のことだ。おまえが奴隷だったとしても、おれが鬼の子だったとしても、帰ってくるところがあった。ここにいれば大丈夫。不思議なちからのある場所だ。それが家だ。
ガットギターはなまえのからだの一部のように歌っていた。反対に楽器のようななまえの声はギターのうわずる音や、枯れて乾いた音にとてもよくあう。
“夜のしじまに
歌うブラックバード
傷ついた翼で
飛びかたを学んで
今までずっと、
君は目覚めのときを待ってた…”
ようやく気づいた。
風が吹くたびに、ガタガタと音をたて、建て付けの悪い窓が揺れる。薄暗い部屋が一層暗さを増したかと思うと、ゆっくりと東日が顔を出し始めた。
なあ、おれ思ったんだけど、夜明け前がいちばん暗いって、案外本当なんだよな。