拍手再録》五条先生が恋人の眠りを守る話


おやおや、と小さく声が漏れた。
可愛い恋人に癒されようと寮にお邪魔したら、目当ての子は談話室のソファにいた。
それだけなら会えてラッキーてとこだけど、こうも幸せそうに寝ちゃってるんじゃ声は聞けないなぁ。

ソファの前に回り込んでお顔に近付いてみると、すぅすぅ平和な寝息。
ハイもう可愛い。息してるだけで可愛い。

でもねぇ、こんな可愛い寝顔をさ?誰が通るか分かんない談話室で晒しちゃうのは彼氏として嬉しくないな。
僕だけが知ってたいのにさ。
うーん、お部屋に運んであげるべきか、起こすべきか。
でも寝顔可愛いし、寝させてあげたいのもあるし…と幸せな葛藤をしてる時に限って着信に邪魔された。
可愛いこの子が起きちゃうでしょーが!!とキレ気味にディスプレイを確認すると伊地知の名前。すぐに切った。
後でマジビンタと思いながらスマホをポケットに戻して、起こすべきか運ぶべきか問題を再考する。

仕方ない。
上着を脱いで華奢な身体にそっと掛けると談話室を後にした。

電話を終えて(勿論マジビンタ宣言もした)談話室へ戻る。
まだ寝てるかな。
僕の上着にくるまって眠る様は冬眠するリスみたいで可愛いの塊だった。
まだ寝ててくれたら写真撮ろうと思いながらソファに近付いて、その姿を見た途端に僕は膝から床に落ちた。

「あ゛ーもう…僕をどうしたいのかなこの子は」

可愛い恋人は、大きすぎる僕の上着にくるまって甘えるように握って、微笑んで寝ていた。
お腹いっぱいで眠る仔猫みたいに。

愛しい。
ダメだ、これは起こせない。

勿論サイレントカメラで撮って、しもべは大人しくお姫様のご起床を待ちますよ、と。
床に座って、柔い髪を撫でる。自分の手がこんな優しい動きも出来るなんて、この子に会わなきゃ知らなかっただろうな。
小さく弱いものを愛しく思う気持ちも、満たされて穏やかな幸せも、世の不条理すべてから守りたいって思う心も、この子が僕にくれた。
この子は僕からもらってばかりだと遠慮するけど、もらってばかりは僕の方だ。

こめかみにそっとキスをした。

今はゆっくりお休み。
僕が誰にも邪魔させないよ。



談話室に悠仁が一歩踏み込んだ瞬間に、僕は口元に人差し指を立てて見せた。
悠仁はひとまず協力的に声を抑えて、「先生、何で上着脱いでんの?」とソファに近付いて来ようとするから手を上げて止める。

「悪いね、これは見せてあげらんない」
「あー…何となく察し。何つーか、先生そんな顔もすんだね」
「んー?僕どんな顔してる?」

可愛くて大好きで仕方ないって顔だってさ。
そんなの当たり前だよね。

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