悪癖のワルツ


※大学生パロです。



こんな日がくるとは思ってなかったなぁ。

「何が?」と硝子ちゃんが言う。その手には硝子ちゃんが普段あまり飲まないマティーニ。彼女はもっぱら日本酒を愛しているのだ。

「だって硝子ちゃんが日本酒以外を飲んでるって初めて見た…あ、梅酒は別で」
「言われてみれば、まぁ」

硝子ちゃんはグラスを口から離して視線を上に流した。

「それに人数の多い飲み会は嫌いって言ってたでしょ?」

これについても彼女は「まぁ」とだけ言った。
21歳というと大抵はお酒について初心者だと思うのだけれど、硝子ちゃんはその血管に日本酒を流してるんじゃないかと思うくらいに日本酒を愛している。
それと、騒がしい酒席を憎んでいる。特に、今日みたいに派手な女の子がたくさん参加するような場は。
硝子ちゃんはモニターの見過ぎで目が疲れた時みたいに目を細めた。

「…そろそろ仕方なかったんだよ」

なにが、だろう。
私が曖昧に「ふぅん…?」と返す間に、硝子ちゃんはまたマティーニに戻っていった。
硝子ちゃんにも付き合いだとか、事情があるんだろう。そもそもお店の席の配置からしてあまり大人数向けではなくて、緩く区切られた小さな半個室がたくさんある…カップルか特に仲のいい友達と来るような雰囲気だ。企画の段階ではもっと少人数だったのかもしれない。

「あのクズどものせい」
「クズって…えっとあの、背の高い、2人の…」
「クズ1とクズ2」
「正式名称で」
「ゴジョーとゲトー。関わっちゃダメなやつ」
「心配しなくても人気のアトラクションみたいになってるね」

そう、学内全体の有名人、ゴジョーくんとゲトーくんだ。ゴジョーくんは『五条』だろうけど、ゲトーくんはどういう漢字なのか知らない。大学始まって以来のイケメンということで、学部の垣根を越えて有名な2人である。
硝子ちゃんの言う内容から察するに、仲間内の少人数の飲み会にあの2人が加わったことで、ファンの参加がみるみる増えてしまったというところだろう。
あの2人がいるテーブルはバーゲン会場みたいになっている。

「そんなことよりミズキ、それ飲んだら次の店行こ。飲み直す。やっぱりポン酒以外はアルコールとして認識できない」
「しっかりアルコールだからね?…じゃない、硝子ちゃんもうちょっと栄養のあるもの食べようよ。ビタミンとかタンパク質とか、私より詳しいでしょ」
「エイヒレは完全栄養食でアルコールの殺菌作用が…」
「おじさんの言い訳みたいなこと言わないの」

硝子ちゃんは医学部なのに、医者の不養生を地でいっちゃうのだ。放っておいたらおつまみしか食べない。
硝子ちゃんがぽっかりと口を開けて見せた。

「じゃあ酒が途切れたタイミングで口に放り込んで」
「うそぉ」

何やら強制的にリズムゲームみたいなものが始まってしまった。とりあえずサラダのお皿からミニトマトを取り上げて構え、硝子ちゃんの口がグラスから離れるタイミングを待つ。

「…」
「…」
「…」
「…いやおくちをお酒から離して?!」

マティーニの華奢なグラスは傾いたまま、硝子ちゃんの口元を遮っている。意地悪か。
私が不平を言うと硝子ちゃんはケラケラと笑って、それからグラスを置くと私に向かって浅く口を開けた。疑いながらミニトマトをその隙間に潜り込ませると素直にもぐもぐと咀嚼する。
とっても可愛い。硝子ちゃんが時折こんなふうに甘えてくれるのが可愛くて、どうしても世話を焼きたくなってしまうのだ。

「ミズキ、焼き鳥ちょーだい」
「グリルチキンって言おっかお店的にね」

串に刺さってもいないし、サラダの上でバジルソースが掛かっているチキンを焼き鳥とは呼べない。硝子ちゃんの綺麗な口元を汚さないようにお皿の上で小さく切ってから口に運ぶと、これもいい子でもぐもぐ。可愛いしかない。

「可愛いなぁ、もっと食べる?」
「もういいかな」

少食さんめ。硝子ちゃんにあげたチキンの残りを自分の口に入れた。美味しいと思うのだけど、硝子ちゃんの口はエイヒレをお求めのようだ。
硝子ちゃんに断ってお手洗いに立った。
騒がしい方を見ると、人気者2人はまだ女の子達に取り囲まれていた。


お手洗いから戻るとビックリ、私と硝子ちゃんだけだったテーブルにお客さまがいた。

「あれ、えっと」
「初めましてミズキちゃん、お邪魔しちゃってごめんね」
「いえ…」

さっきまで高砂席みたいな状態で祀り上げられていたゴジョーくんとゲトーくんだった。仕切りの観葉植物に隠れるように身を屈めて座っていて、ゲトーくんが困り顔で笑った。ゴジョーくんは不機嫌そうな顔でテーブルの上の料理を睨んでいる。
ちらっと女の子たちの密集地帯を確認すると、2人のいた席だけがポッカリ空いていて、女の子たちはスマホを触ったりお化粧を直しながら2人の戻るのを待っている。

「…俺らの居場所バラすなよ」

低い声に目を向けると、ゴジョーくんだった。

「あ、はい、もちろん」
「こら悟、ごめんねミズキちゃん」

これだけで関係性の見える2人である。
私も半個室に滑り込んで改めて紹介を受けたところ、驚いたことに硝子ちゃんを含め3人は同じ高校出身なのだという。
五条悟、夏油傑。漢字を例えながら夏油くんは丁寧に教えてくれた。

「あ、そうだ硝子ちゃん。この近くで日本酒の品揃えがいいお店見付けたよ」

硝子ちゃんにスマホの画面が見えるように肩を寄せると、何故か彼女はふいっと顔を背けてしまった。あれ、あんまり好みのお店じゃなかっただろうか。

「いいね。私も日本酒の方が好きだから、良ければ一緒に飲み直さない?」

見かねた夏油くんが取り持ってくれた。彼はテキパキとテーブルを軽く片付けて、手近にいた知人に4人分の会費を託し、にこやかにスマートにお店を出た。
外に出てみると夜風が意外に冷たく、思わず腕を擦った。

「寒い?私の上着使って」
「えっ」

隣(というかほぼ上)を見ると夏油くんが心配そうに私を覗き込んでいて、肩から背中をカーディガンの温かさが包んだ。

「え、悪いよ夏油くん半袖になっちゃった…あとお金、さっきの会費!」
「私暑がりだから平気なんだよ。会費はそうだな…次のお店で」

夏油くんはふっと涼やかに笑った。この人はあれだ、美人。黒髪が街灯の光で艶々として、『暑がり』と言うけど汗をかくところを想像できないというか、常に余裕で涼しそう。
さすがは学内きってのモテ男というところ。
私はというと、こんな女の子扱いみたいなことをしてもらうのは経験が浅くて、顔が熱いのを隠しながらとにかくカーディガンがずり落ちないように左右の襟元を引き合わせた。

「可愛いね」と夏油くんが微笑んだ。
私にはそれを社交辞令だと自分に言い聞かせるくらいしか、出来ることがない。



こんな日がくるとは思っていなかった。
何のことかというと、悟とひとりの女の子を取り合うことになった。

その日は学部の違う悟と必修科目の講義が被る日で、連れ立って大講堂を目指して歩いていた。
「あ、硝子じゃん」と悟が言うのにつられて窓の外を見ると確かに知った顔があって、ただその隣には知らない子が歩いていた。

「珍しいね、硝子が誰かと…」

一緒にいるなんて、と続けるつもりだった文章が尻切れになった。平たく言うと、そこで私は窓越しに一目惚れをした。
しばらく見惚れているとシャッター音にハッとして悟を咎める。

「こら、盗撮だろ」
「後で消す。硝子のやつ紹介しろってもしらばっくれるに決まってる」

いやお前もかよ。

とにかく、それから硝子に頼んで拝んで貢いで(高くついた)、とうとう鬱陶しさが限界にきたらしい硝子が「ミズキを飲み会に連れ出してやる。後はお前らで何とかしろ、紹介はしない」と根を上げた。
それで念願叶ってやっと漕ぎ着けた出会いの場だったわけだけれども。

「ねぇ悟」
「んだよ」
「私達、いま何を見せられているんだろう」
「知るか」

会場に入った途端いわゆるお誕生日席に悟と一緒に据えられてしまい、何故か目当てじゃない女の子の相手をする羽目になっている。
遥か遠い半個室に硝子とあの子が見える。あっちに行きたい切実に。
硝子とあの子、ミズキちゃんは肩が触れるほど寄り合って座って、盛大にイチャついている。
悟が不機嫌な唸り声を上げた。

「おい傑、どーにかしろよ。何のために来たのか分かんねぇ」
「私だってそうだよ」

正直ものすごく羨ましい。
ミズキちゃんは楽しそうにくるくる笑って、甲斐甲斐しく硝子の口に食べ物を運んであげている。硝子も満更でもない…というか時折こっちを見てせせら笑っているので、『羨ましいだろ』と思っているに違いない。

その内にミズキちゃんが席を立った。硝子が動かないから店を出るってわけじゃないだろう。
案の定ミズキちゃんは化粧室へ入っていった。
私が席を立つと悟もすかさず続いた。
席を離れる前に自分のグラスを指して、戻ったら飲むからグラス交換しないでほしいと隣近所に伝えておいた。

「あ?トイレじゃねーの?」
「それだと出入口があの席から見える」
「はーさすが逃げ慣れてんな」
「悟を売って逃げてもいいんだよ」
「お詫びして撤回いたしますぅ」

煙草で店を出るふりをしながら硝子のテーブルに着くと、硝子は隠しもせず『げぇっ』という顔をした。

「随分楽しそうだったね、硝子」
「…まーね」
「傑もうちょい詰めて」

観葉植物の影に隠れるには、私と悟は図体がデカすぎるかもしれない。それに悟の白い頭は目立つ。

「アンタらも楽しそうにチヤホヤされてんじゃん」
「どこがだよ、グラス掏り替えられそうになるわ無駄に乳押し付けられそうになるわ散々だっつの」

悟が嘔吐顔で吠えた。最近では男でも酒の場で自衛しなきゃならないらしい。

「あれ、えっと」

悟の嘔吐顔が一瞬で引っ込んで、面白いほど肩がビクついた。多分私もそう。
あの子がいる、本当に、いる。
かわいい、何て言えばいいのか分からない、頭が回らない。多分悟もそうだ。
それでもその場凌ぎに長けた私の口は当たり障りのない挨拶を垂れていた。どさくさに紛れて名前も呼んだ。
ミズキちゃんはまた硝子の隣、腕が接するぐらいに寄って座って、私の方を見てくれた。まんまるな目が私を見ている。自分が妙な表情をしていないか確認したくなった。

ミズキちゃんは私と悟の名前は人伝に知っていて、だけどどこかゆるキャラの名前みたいな捉え方をしていそうだった。それで2人分の名前の漢字を例えながら説明していくと、ある時彼女が「あっ」と声を上げた。

「どうしたの?」
「夏至の『げ』だ」

スッキリ、という顔で目を輝かせている。珍しい苗字だから自己紹介で面倒な経験ばかりが多かったけど、自分のこの名前を彼女が今丁寧に取り扱ってくれているというだけで、名前に感謝できた。続いて油を『とう』と読む事例を考えていそうだったので、「元は地名みたいだからこの読み方はこれだけだよ」と言い添えておいた。
全く注目されない悟がテーブルの下で私の脚を蹴った。足癖が悪いな、愛想良く喋れない君が悪いんだろ。

「あ、そうだ硝子ちゃん。この近くで日本酒の品揃えがいいお店見付けたよ」

ミズキちゃんがさらに硝子に寄って、スマホの画面を見せた。
察するに、硝子は私と悟が話し掛ける前に店を移りたかったのだろう。その証拠に、私達の視線を受けた硝子はふいっと顔を逸らした。

「いいね。私も日本酒の方が好きだから、良ければ一緒に飲み直さない?」

この店から抜け出す、ミズキちゃんと落ち着いて話の続き、私にとっても理想的な手だ。そうなればさっさと現場を片付けて、元の席の周囲に気付かれないように手早くその店を後にした。
この時期夜になればまだ冷えるから、あわよくば上着を貸したいとカーディガンを手に携えて。思い通りになった私の後ろで長袖シャツだけの悟が歯噛みしたのが分かった。
私のカーディガンにくるまれて赤くなった頬を隠そうとしている様を見ていたら、「可愛いね」以外の言葉は出てこなかった。



こんな日がくるとは思ってなかった。

何のことかというと、傑と同じ女の子に、しかも同時に一目惚れをした。
学内で硝子と一緒に歩いてるのを見て惚れて、頼み込んで貢いで(高くついた)ようやくチャンスをもらった。
のに、俺は何故か全くお呼びじゃない女どもに囲まれて酒臭い席に座っている。

「ねぇ悟」
「んだよ」
「私達、いま何を見せられているんだろう」
「知るか」

傑の方も同感らしい。
辛うじて同じ店ってだけで遥か遠い席に、硝子とあの子が座ってるのが見える。視力良くてよかった…じゃねぇわ。硝子、俺らが動けないのを分かっててこれ見よがしにイチャついてやがる。
俺の注意が逸れてる間に隣の女が俺のグラスをアルコールに掏り替えた。警察に突き出してやろうか。

その内にあの子が席を立ってトイレのある方へ消えて、同時に傑が立つので俺も続いた。さも『すぐ戻ってくるからね』みたいな雰囲気作るの上手いよな、こいつ。

硝子のテーブルに2人で滑り込むと、硝子は隠しもせず『げぇっ』って顔をした。

「随分楽しそうだったね、硝子」
「…まーね」

まーね、じゃねぇよ何回か悪魔みたいな笑い方しやがったの見てんだからな。

「アンタらも楽しそうにチヤホヤされてんじゃん」
「どこがだよ、グラス掏り替えられそうになるわ無駄に乳押し付けられそうになるわ散々だっつの」

酒と香水と食い物の臭いが混ざって気持ち悪い。飲み屋の料理は嫌いじゃないけど人数の多い飲み会は不快が多い。

「あれ、えっと」

この時俺の目はテーブルに向いてて、声は聞くのも初めて、でもこれがあの子の声だっていうのはすぐに分かった。肩がビクついたことは多分傑にバレた。
顔上げられんねぇ、心臓バクバクする。
傑はすぐに愛想のいい返事をしてて、こいつのこういうところが本気ですごいと思う。

あの子が半個室の入口で立ち止まったまま入ってこようとしないから、何か言わなきゃと思って口から出た「俺らの居場所バラすなよ」を、俺は呪った。何かあるだろ他に言うことも言い方も。正解は分かんねぇけど。
その後も楽しく展開していく話に俺は乗れずムシャクシャして、とりあえずテーブルの下で傑の脚を蹴った。

「あ、そうだ硝子ちゃん。この近くで日本酒の品揃えがいいお店見付けたよ」

あの子が硝子に寄ってスマホを見せた。髪が混じるぐらいに近い。
つーか硝子のやつ、バックレる気でいやがったな。視線で責めると硝子はふいっと顔を逸らした。
でもまぁ店替えは俺らにとっても都合のいい話で、傑が手際良く引き払って4人で店を出た。そもそも人に上着を貸す発想が無かった俺は、あの子が傑のカーディガンにくるまれるのを指咥えて見てるしかなかったわけだが。

歩き始めて、スマホで地図を見るあの子の隣に寄った。

「…次の店、どこ」
「わっ えと、あのコンビニの角を左で、その後道路渡って…」

小さい指が液晶を滑っていく。爪の形が綺麗な楕円で、何の色も塗ってなくて、でも艶々している。何もかも小さくて何もかも可愛い。肩に掛かった傑のカーディガンは膝上ぐらいまであって、これが俺の貸したやつだったらなぁとモヤつく。

画面上の地図はちょっと拡大しすぎで、何となくだけど地図読むのが苦手そうだと思った。

「スマホ覗くの腰イテェわ。URL送って」

実務1割と下心9割。
すんなり俺の連絡先をもらってくれて、いくらも待たない内にメッセージがきた。URLに『お願いします』と添えてあった。
地図を開いて位置を把握。

「五条くんも夏油くんも背が高いね」

こんなこと言われ慣れてる。そのはずなのに、急に返事の仕方が分からなくなって微妙な声を出しただけになった。
確かに俺の胸辺りに頭がくる…と目算してると無性に髪に触りたくなって、頭の中で『ダメ』と『初対面』をグルグル唱えてやり過ごした。

「お前はちっさいね」

俺からしたら可愛いと同義の褒め言葉だったけど、相手はそう思わなかったらしい。『困った』と『怒った』の間、を弱めたような可愛い顔をした。

「五条くんからしたら大抵の人は小さいよ」
「まぁそうだけど…いいんじゃねーの、可愛い」

言ってから『あヤバ、キモかったか』と思ったけど、反応から見て今度は良い方に予想を外れたらしかった。

コンビニの角がきて左に折れる。
隣のスマホはまだ地図を表示している。

「もう地図見なくていーよ」
「え、五条くん見なくて平気?行ったことあるお店だった?」
「ねぇけど…見たら覚えるだろ」

言うと、まんまるな目がさらに丸くなってまじまじと俺を見た。それから自然に少し離れて傑と歩いてた硝子を振り返って呼んだ。

「硝子ちゃん硝子ちゃんっ五条くんすごいね、初めて歩く場所の地図見てすぐ覚えちゃうんだって!」

小さい手が俺の腕に触れてる。当人は多分興奮してて意識してないし、少し酒が入ってるのもあるかもしれない。
こっちは素面のくせに心臓がまたうるさい。

「高性能ナビ付きサングラス置き場だからな」と硝子。テメェ事前に貢いだ煙草没収すんぞ。
「燃料は砂糖だよ」と傑。ウルセェお前は燃料蕎麦だろ。
隣は楽しそうにくるくる笑ってて、呑気に可愛い顔しやがって食っちまうぞ…みたいな、イラつく感情が腹に燻った。

「なぁ」
「うん?」
「ひとつ頼まれてほしいんだけど」
「ん、何でしょう!」

お使い頼まれた子供みたいな顔。
立ち止まって屈み込んで、その耳元に口を近付けた。

「…連絡先、傑には教えないで?」

「ひぇっ」と裏返った声を上げた当人は真っ赤になってて、それを見るのは気分が良かった。

「どっどうしてダメ、なん、ですか…」

俺から守るみたいに耳を手で庇ってぷるぷる震えて、言葉は尻すぼみ。照れて、恥ずかしくなって、混乱して、俺のことばっかりになればいい。
耳元に近いままふっと笑った。

「お願いきいてくれたら、理由教えてあげる」

追い付いてきた傑に思っきり殴られた。

「イッッッテェ!相変わらず手ェ早いなお前あらゆる意味で!」
「うるさい、悟がセクハラするから悪いんだろう」

やたら痛いと思ったら、傑の指にはごつい指輪が嵌っている。ほぼメリケンサックじゃねーか。
追い付いてきた硝子が「おいクズども」と低く呼んだ。

「私のミズキから手ェ離しな。腹捌いてお前らの小腸固結びにしてやろうかゴミカス」

口悪ぅ。ほら当人ポカンとしてんじゃん友達の新たな一面に。
硝子は据わってた目を急に可愛く上目にした。

「…ミズキ、私のこと嫌いになる?」
「な、ないよっそんなの!好き!」
「だよね。ハグしよほらぎゅー」

ほぼ同じ背丈の2人が抱き合って、硝子は俺と傑に向かってベェと舌を出した。
コイツ女子だけど蹴ってやろうか。


***

手の早い夏油さんと足癖の悪い五条さんと口の悪い家入さんのはなし。

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