拍手再録》五条先生と高専五条さんに挟まれる話


17歳の僕の顔を見た瞬間に思い出した。
隣に座る可愛い恋人はまだ状況が飲み込めないで、突然現れた17歳の僕と教師の僕を交互に見ている。

「先生、ふたり…?」
「ウン、こっちの僕はいつもの先生でそこの僕は17歳だよ」
「ちょい待て説明しろよダサ目隠し」

だからお前だってば。
17歳の時、高専の倉庫に保管されてた呪具を悪ふざけで触ってて、まぁ安い小説みたいな感じで未来に来たことがある。だからお前が体験中なのは正にソレなんだよ。
このことを親切に説明してやれば、呪具に心当たりがあるようで17歳の悟くんは口を噤んだ。

「え、じゃぁ先生、17歳のときに私と会ってるの?」
「そうだよ。ただね、縛りで今この時までそのことを忘れてたの」
「あっ、未来を変えないため?」

ウンウン、昨日一緒に観たバックトゥーザ・フューチャーが効いてるね。いい子いい子、でも不正解。

「17歳の僕が過去に戻った後で、4歳かそこらの君を攫いに行かないようにだよ」

だってお前、もうこの子のこと好きだろ?
指摘してやれば、煽り耐性ゼロだった17歳の悟くんは顔を真っ赤にして怒り始めた。僕に掴みかかる勢いだから、僕は自分が17歳の時にされたのと同じように楽しく火に油を注いでみようね。
17歳の僕に目を向けたまま愛しい子の肩に手を回して、柔い髪に頬を寄せた。

「ほーら、かぁわいいでしょ?キラキラのお目目にふんわりしたほっぺ、天使の輪っかが出来る艶々の髪でさ、僕に駆け寄って『先生、先生』って笑ってくれんの。ハハッ、お前可哀想だね、まだこの子に愛される喜びを知らないんだもんね?」

17歳の悟くんはそれはもうお怒りで、そうだ、自分の時はもうちょっとで術式使うところだったなぁ。
言っとくけど将来的にお前も過去の自分をこんな風に煽り倒すからな。
でもね、僕を、僕らを一瞬で黙らせちゃうのが、この子なんだよ。

「先生あのね、17歳の先生とお話してもいい?先生に悪いことが起こったりしない?」
「いいよ、お話してあげて」

愛しい子は顔をぱぁっと輝かせて(はい可愛い、17歳くんも同じこと思ってる)立ち上がって、17歳の悟くんに歩み寄った。

「17歳の先生、ごめんなさい…私が高専の頃の先生に会いたいって言ったから、こんなことになっちゃったのかも」
「…お、まえ、俺に会いたいって、思ったの」

こくん、とちっちゃな頭が頷いて見せた。その顔を17歳の時には正面から見たなぁ。少し恥ずかしそうに、でも笑って、お目目が期待でキラキラしててさ、惚れずにいられなかったなアレは。

「抱き締めたいでしょ?」

僕がそう思ったもん。
17歳の僕もこればっかりは素直に頷いた。ってコラもう腕が抱き締めようとしてんだよオイ。

「ここでさっきの縛りの話だけど。その子が許したら抱き締めてもいいよ。その代わり元の時代に戻ってから28になって過去の僕と会うまでこのことを忘れる、そういう縛り」
「分かった飲む」

言い終わるのを待たずに17歳くんは愛しい子の柔い身体を力一杯抱き締めた。オイちゃんと許可取った?あー、取ったな、表情が『いいよ』って言ってくれてたもん。あれは可愛かった。

「可愛い…何つーの?こう…ピッタリくる。連れて帰りてぇ」
「先生と2歳しか変わらないって不思議な感じ…。制服お揃いなの嬉しい」
「キスしていい?」

ダメに決まってんだろ殴るぞ。
はいお時間でーすって具合に引き離したところで、17歳くんに作用してた呪力がふっと揺らいだ。効果切れが近い。

「…そろそろ戻るっぽいな」

17歳くんは手を結び開きして、薄れゆく呪力を眺めながら名残惜しそうに言った。
でも大丈夫。

「お前が戻った先にも、まだ幼いけどちゃんとこの子がいるよ。15歳になったらお前に会いに来てくれるんだ、悪くないだろ?」
「…まーな」

17歳の僕は寂しそうに愛しそうにこの子を見た。それから、過去に僕がしたのと同じように名前を尋ねて、答えを聞き届けて、何か言おうと口を開きかけたところでふっと消えてしまった。

今の今までもうひとりの僕がいたなんて信じられないぐらいに、元通りの静かな風が吹いた。

「…最後、17歳の先生は何を言おうとしたの?」
「何だったかな、忘れちゃった」
「そっか…ちょっと寂しいな」
「アイツ折角聞いた君の名前も今頃忘れちゃってる。でもね、自分の腕や服から柔らかくて甘い匂いがするような気がして、それがすごーく大切なものだった気がして、それだけはずっと覚えてるんだよ。それで教師になって入学してきた君に会った時にね、これだ、って思うのさ」

キラキラした一対の目が、僕を見てまんまるになった。

「先生も、そうだったの?」
「そうだよ。忘れたままずっと待ってた」

僕の大好きな、ずっと求めてた子が、心から嬉しそうに笑った。
ずっと待ってるって、本当は、そう言おうとしたんだ。

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