月夜、赤い糸@


※魔○の宅○便パロですが早々にストーリーは別の流れになります。
箒に乗らない、猫と話さない、お届け物もしない、パン屋に住まない、13歳じゃなく15歳。




現代においては絶滅危惧種みたいだけど、私は連綿と続いてきた魔女の一族だ。
魔女は15歳になると親元を離れて修行に出る。
初めての土地に行って、生活のすべてを自分で一から築き上げるのだ。私も15歳を迎え、満月を待って親元を離れた。黒猫のチタンと一緒に。

予報になかった大雨に降られたり道中苦労はあったけど、大きな時計塔のある海辺の綺麗な街に行き着いた。
ウミネコがミャアミャアと鳴いていて、少し潮のにおいのする風が柔らかい、とても素敵な街。先住の魔女さんがいなかったらこの街にしたいね、と話しながら歩いていた矢先、チタンと逸れてしまった。

車に轢かれでもしたらと思うと不安で、あちこち走り回って探した。もうじき日が暮れるから、今日の寝床も探さなくちゃいけないのに。
探し回る内に賑わう街中を抜けて住宅街に入っていて、小道の先に見える海が綺麗だった。もう一度チタンの名前を呼ぶと、ミャア、とウミネコとは違う知った声が聞こえて急いで駆け寄った。
チタンは高い塀の上にいた。そしてそこにはチタンと一緒に、男の人がいた。

チタンの顎下を指先で擽っていたその男の人は、私に気付くとサングラスを外した。露わになった目は空みたいに青くて美しくて思わず無遠慮に見入ってしまった。その人は私に微笑みかけてくれた。

「この子、君の猫ちゃん?」

これまでに見たことのないほど綺麗な男性だった。

「上がっておいでよ。猫ちゃんと待ってる」

言うと、その綺麗な男の人は塀の中へ引っ込んでしまった。横を見ると階段があって、少し躊躇ったけど登っていくと、その先は丁寧に手入れされた庭だった。色とりどりの花と、ハーブも豊富にある。
一瞬庭に見惚れていると足元にチタンが駆けてきて、しゃがんで手を出すと腕を登って肩に乗った。襟巻きのように首の後ろを通って、相手をしてくれていた男の人に向かってミャアと鳴いた。

「初めまして、僕は五条悟」

同じ高さに立ってみると、彼はとてもとても背の高い人だった。にっこり笑った顔はやっぱりとても綺麗で、高級な花とミルクプリンと宝石を掛け合わせたような人だと思った。

「ミズキといいます。チタンのこと、ありがとうございました」
「いいよ、勝手に触ってごめんね。…ねぇ、不躾かも知れないけど、ミズキちゃんは魔女なのかな?」

肯定して、15になったので修行に来ているのだと答えると、五条さんはその青い目を輝かせた。

「いつかこの街に魔女さんが来たら話してみたいと思ってたんだよ!上がって、話を聞かせてくれない?」
「でしたら、明日でもいいでしょうか?今日はもう泊まるところを探さないと」
「それならウチに泊まってよ、部屋なら余ってるんだ。ね、いいでしょ?」

こんなに都合のいいことがあって、すんなり信じてしまっていいのだろうかと思ってしまう。迷っていると、チタンが肩からミャアと鳴いた。『そうしなよ』と言われているような気がした。



「じゃぁ、拝見しますね」

テーブルを挟んで、天井に手のひらを向けて差し出された五条さんの両手を覗き込んだ。手相を見た後はカードを出して配置し、めくって意味を読む。

五条さんの有難い申し出に甘えることにして、落ち着いた調度品の並ぶ部屋で美味しい紅茶やお菓子までいただいた。会話の中で得意なことを聞かれて占いと薬の調合だと答えたら、今日の宿代として五条さんを占うことになったのである。

「…すごいです。元々強運をお持ちだし、とっても多才。何をやってもコツを掴むのが早いし人より上手に出来るんじゃないですか?」
「まぁ要領いいって言われることはあるよ」
「お金に困ることはまずないですね。うーん…何か占いっぽいアドバイスが出来たらいいんですけど、とにかく隙がないっていうか…」
「恋愛運とかどう?」
「恋愛…あ、これもすごいです。まさに今日ですね。運命の人と出会うみたいですよ!今日はもうほとんど終わっちゃいましたけど、それらしい出会いはありましたか?」

こんなにハッキリだなんて早々ないというくらいに、手相にもカードにも強く運命の出会いが現れていた。
思わず興奮気味に見上げると、五条さんもひときわ嬉しそうに目を細めていた。

「うん、あったよ」
「とっても素敵、大切になさってくださいね」
「大切にするよ」

こんなに素敵な男性が、運命の出会い。映画みたいに素敵で文句の付けようがない。

「それじゃぁ占いはこれくらいにして、泊めていただくお礼に幸せのおまじないをしますね」

五条さんの左手をお借りして、小指に私の組んだ赤い糸を結えた。この親切で美しい人に、思い付く限りの幸せが降りますように。

「明日起きるまでそのままにしてください。そうしたらもう外しても大丈夫」
「ありがとう、大切にするよ」
「私のおまじないより、五条さんの元々の運の方が強いかも知れないですけどね」
「そんなことないよ。大切にする、本当に」

五条さんは穏やかにまなじりを下げ、私の結えた糸を小鳥の雛でも抱くように手で包んだ。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -