拍手再録 あきらめそこない達の理想的繁忙


AM7:40

「やだやだやだ絶っっっ対やだ、僕が恋人と一緒に朝迎えるのいつぶりだと思ってんの?ただでさえ忙しいのに傑と硝子と輪番だし2人っきりってマジで貴重なんだよ分かる?喜んでほしくていいパンとバター買った僕のいじらしい努力は無かったことにされるわけ?」
「そういう訳では…ですがその、」

こんなに朝早くから仕事なんてしたくない気持ちは、とっても良く分かる。だけどこの時間に五条くんの私室の呼び鈴を鳴らした伊地知くんは既にスーツを着てるわけで、そうも言っていられない。
五条くんが戸口で伊地知くんと話すのを聞きながら、いいパンにいいバターを塗って他にも色々と具を挟み、ラップで包んだ。
五条くんのシャツだけを着た格好は恥ずかしいから姿を見せないようにしつつ、物陰から五条くんを呼んで、すぐに五条くんは私のことを抱き締めに来てくれた。

「騒がしくてごめんね。身体平気?」
「私は大丈夫だから…ね、買ってくれてたパン、サンドイッチにさせてもらったの。カフェオレも水筒に入れようか」
「一緒に食べたかったのにぃぃぃ…ねぇ今からベッドに戻って何も考えずにセックスしようよ、イイ案じゃない?」

かぁっと顔が熱くなる。今の絶対、伊地知くんにも聞こえちゃってた…。

どうにか動悸を抑えて、私より随分高い位置にある五条くんの頬に触れて、キスをひとつ。

「五条くん…お仕事頑張ってきて?次の時はきっと一緒に朝ごはん食べよ?」

五条くんはしばらく私のキスしたところを指で確かめるように触れていて、それから私の後頭部に手を回してキスを返してくれた。私が昨日の夜のことを思い出してしまうような、朝には似つかわしくないキスを。
キスを終えると五条くんはそれはもう綺麗に笑った。艶々の唇が濡れ光って、目は優しいのにどこかギラついていて、溜息が出ちゃうくらいに綺麗。触っちゃいけない魔法の宝石みたいに。

「気持ち良かった?」
「うん…」
「僕も。ずーっとキスしてたいぐらい大好き。勿論その先もね」

私も、大好き。
その時玄関の方で、伊地知くんがか細く「五条さーん…」と呼んだ。私が五条くんの腕をトントンと叩くと、五条くんは溜息をひとつ。

「仕方ないね、可愛い恋人の頼みだしサクッと祓ってきちゃおうかな」

五条くんは水筒にカフェオレも持って任務に出掛けていった。
1人になった部屋で五条くんの買ってくれたパンを齧る。これ、ものすごく美味しい。



AM10:32

「………もうアンタ以外の誰が怪我しようとどうでもいい」
「硝子ちゃん疲れてるね」

徹夜明けの硝子ちゃんの目元はいつもより隈が濃い。呪術師が繁忙期ということは怪我人も多くて、伴って硝子ちゃんも忙しくなり、こんな風に徹夜になってしまうこともある。
すっかりやさぐれてしまった硝子ちゃんがコーヒーを欲しがるので、それはお断りした。

「目を覚まそうとしちゃだめ、休んで。仮眠室の準備してあるから行こ?」
「…一緒に寝てくれる?」
「え?えっと…」

徹夜明けの硝子ちゃんはいいとして、勤務中の私は仮眠なんて出来ないし…と困っていたら、周りの人達がこぞって仮眠を勧めてくれた。でも悪いし、けどやっぱり私の手を握った硝子ちゃんの目は甘えてて可愛いし…と迷ってしまう。

「アンタのおっぱいに顔埋めてじゃないと今日は寝ない」と硝子ちゃん。
「家入さんに休息してもらうための立派なサポート任務ですから、どうか」と伊地知くん。

20代も半ばを過ぎて、仕事中にお昼寝をする日がくるとは思っていなかった。
メイク落としシートで硝子ちゃんを素顔に戻し(綺麗、だけどひどい隈)、シャワーを浴びてもらい、一緒にベッドに潜り込む。硝子ちゃんは本当に私の胸に顔を埋めて深呼吸した。

「ここに住みたい…」
「仮眠室?確かに職員寮ってちょっと遠いよね」
「ちがう、あんたの、むね…」

寝ちゃった。可愛い。



PM7:40

「私と君以外は滅びてしまえばいいのにね…」
「夏油くん一旦落ち着いて」

夏油くんもものすごく疲れている。硝子ちゃんほどではないけど目元に隈が浮かんでいるのが見えた。
私がお昼寝しちゃった分の仕事を片付けているところへ任務から戻った夏油くんは、ひどくやさぐれていた。ここまでで既に徹夜も含む激務をこなした上に、可哀想にこれから事務仕事に取り掛かるというのだから気持ちは分かる。

「じゃあ私も夏油くんが終わるまで一緒に仕事するよ。あ、その前に夜ごはん食べた?」

まだだった。それで、私は食堂でおにぎりと少しのおかずを作ってきたのだけれど、何とその間に夏油くんは粗方仕事を片付けていた。「報告書なんて9割以上定型文だからね」なんて言うけど、それにしたって多方面に有能すぎる。
おにぎりと玉子焼きで簡単なご飯を済ませた後は、私の仕事を夏油くんが手伝ってくれさえした。

「ごめんね夏油くん私、情けない…」
「私が恋人の前で格好付けたいだけさ」

格好付けるまでもなく夏油くんは格好良いよ。これを言うと、夏油くんは私の手を引いて膝に座らせた。椅子のキャスターが2人分軋む。
夏油くんがそのすらりとした鼻筋で私の髪を掻き分けて、項にキスをした。思わず肩が跳ねて逃げてしまいそうになるのを、夏油くんの手は見越していてお腹の前でしっかり私を捕まえている。
「好きだよ」と夏油くんの声が、私のすぐ後ろで言った。

「わっ私も好き、だけどちょっと、ここじゃ…」
「誰もいない」
「仕事っ」
「私が片付ける」
「だめだってば、」
「好きなんだ…君にキスしてると心が落ち着く。別の部分では興奮するけどね」

言葉の合間に夏油くんはちゅっちゅと私の項にスタンプを押すみたいにキスをした。前に五条くんが私の項を見て「マーキングの仕方に性癖出てんね」と言っていた、その意味は、これなのかも知れない。

「夏油くん、後ろから抱っこするの好きだよね」
「うん好き。勿論全部大好きだけど、君の背中とお尻が特に好きだよ」

「だから、後ろからが多いだろう?」って、夏油くんはわざと声をしっとり低くして囁いた。お腹の前で組まれた手は私のお臍の下辺りを軽く押さえて。背中がぞくぞくする。仕事をする場所で考えちゃいけないことを思い出してしまった。

「お疲れサマンサー!」

教務室の入り口が突然開け放たれて、五条くんとその後ろに硝子ちゃんもいる。硝子ちゃんが「クロ、抜け駆け減点1な」と言った。

「抜け駆けも何も今日は私の日だよ」
「繁忙期は流動的にって細則あるだろ」

そうだったんだ…?
硝子ちゃんはカツカツと靴を鳴らして歩いてきて、夏油くんの膝にいる私にキスをしてくれた。

「この時期に僕ら全員高専にいるってレアなんだからさぁ、やるでしょ宴会と雑魚寝!」

五条くんの提案に学生の頃を思い出して楽しくなって、だけど夏油くんは嫌じゃないかな…と表情を窺うと、夏油くんは気の抜けた感じで笑っていた。

それから、お酒とおつまみとお菓子を買って、五条くんの部屋でみんなで騒いだ。3人の恋人たちは代わる代わる私にキスをしてくれて、口に残ったアルコールで五条くんが酔って私を押し倒して残る2人に叩かれたりだとか、硝子ちゃんと私のお昼寝のことを知った五条くんと夏油くんが拗ねたりだとか、女性の身体のどの部分が好きかの話だと思って聞いていたら「アンタのことだからね」と硝子ちゃんに言われて恥ずかしくなったり、あぁなんて愛しい、私たちの生活。





***

五条悟
キスが好き。おっぱいが好き。朝食は和洋どっちでも。(放っとくとケーキとか食べる)
寝る時は夢主を抱っこしていたい。

夏油傑
背中とお尻が大好き。朝食は和食派だけど好きな人に合わせる男。
寝る時も後ろから抱っこしていたい。

家入硝子
好きな子の全身が好き。死ぬほどキスが上手い。放っとくと朝食を食べない。
寝ないで寝顔を見ていたい。

×
「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -