ミテクレ


朝、教室に入ってきたミズキがいつになく嬉しそうだったから、理由を尋ねてみた。
何でも、硝子とミズキで身長体重が完全に同じだったのだそうだ。言われてみれば同じぐらいの背格好だけど、完全一致とは中々ない偶然だ。
成程それで。

「それで制服を交換したの?」
「そう!サイズに全然違和感なかったよ」

ミズキはまた嬉しそうに、軽く腕を広げて見せてくれた。硝子の高専服は全体的にタイトで、口に出すとセクハラになってしまうような感想が思い浮かぶ。何て言うか…これはちょっと、目の毒だな。特に悟には。

「で、同じだった体重は何sなわけ?」

そらきた小学生男子、それを聞くんじゃないよ。
幸いミズキは「内緒」と笑って硝子のところへ行った。
ミズキが穏やかな子で救われたね悟…と思って見ると、当人はミズキの後ろ姿を夢中になって凝視していた。女性に体重を尋ねる失礼をやらなければ正面から見てられただろ。
私の視線に気付いた悟が肩を殴ってきた。

「見んな」
「君を?ミズキを?」

まぁ両方だろうけどね。

「見るなら金払えよ。煙草払いも可」

ミズキの制服を着た硝子が言った。服を交換しただけで硝子が真面目な学生に見えるから不思議だ。
悟は「誰が」と毒吐いた。

そうしてる内にミズキは夜蛾先生に呼ばれて教室を出て、足音が遠去かると悟がおもむろに両手で輪を作った。「こんだけ」と呟いて。

「こんだけしか無かった…」

腰がね。
まぁ確かに細いなと思ったけど、普段同じ背格好の硝子を見ても何も言わないだろうに。案の定硝子は白い目で悟を見た。

「何かのキッカケで本性がバレて底辺の下まで嫌われればいいと私は思ってる」
「仕方ねーだろ現に腰こんなだったぞ」
「悟…口に出すべきことは他にあるだろ。似合うとか可愛いとか、女の子の喜びそうなことがいくらでも」
「クズがクズに説教してら」
「えぇ…フォローしたのに被弾することってある?」

真面目な学生に見えてもやっぱり硝子は硝子でしかなかった。穏やかなミズキには一刻も早く戻ってきてほしいところだ。
そう思ってる内に本当に帰ってきてくれて、途端に悟と硝子が大人しくなった。母親の前でだけ仲の良いふりをする兄弟みたいに。
ミズキの制服を着た硝子は真面目な学生に見えたのに、逆のミズキは煙草を吸いそうには見えないから不思議だ。

「硝子ちゃん制服戻す?」
「今日はこのままでいーよ」
「ん!」
「折角だから席も替えよ。ミズキ今日こっち」

硝子はいそいそとミズキを自分の向こう側に誘導して悟の視線を遮った。私から見える悟の後頭部が苛ついている。

「ね、五条くんと夏油くんは制服取り替えてみたことないの?」

硝子の向こうから、ミズキが無邪気に顔を覗かせてくれた。悟、花を飛ばすな。

「逆にあったらキショくね?」
「私と悟だとサイズも違うしね」

ミズキは『そうなの?』というような顔で首を傾げて、私と悟を見比べた。

「五条の方が背は高いけど横幅は夏油の方があるな」
「硝子…人を太ってるみたいに言わないでくれ」
「でも確かに五条くん背は高いけど、細身だからもしかして私と肩幅あんまり変わらない?」
「んなわけあるか」

確かに悟は細身だけど、ミズキと一緒は無理がある。悟の後ろにミズキが立てば上半身はまるで見えない。
悟が上着のボタンに手を掛けて立ち上がった。

「そんな言うなら着てみろよ」
「えっ」

悟が上着をずいっと差し出すと、ミズキは固まってしまった。
悟には淡い下心が見える。自分の上着を好きな子に着て見せてほしいというのは、男として理解出来る。
それと悟には伝えていないが、ミズキも悟のことを意識してるんじゃないかと私は見ている。その相手から上着を差し出されて二つ返事で袖を通せるタイプの女の子じゃない、とも。
さてどうなるか、興味を持って見ているとミズキの目がこっちに逃げてきた。

「げ、夏油くんっ着てみたら?」

何で???

「イヤ誰が得すんのそれ?」

さすがに硝子もそう思うよね?

「俺と傑の微妙な誤差明らかにしてどーすんだよ。元はお前が俺と肩幅一緒とか妙なこと言い出すからだろ」

うん、まぁ、その通りではあるんだけど。
何で君は好きな子に喧嘩腰で挑んじゃうかな、無駄に器用なくせに。悟は席の正面に立って、更に上着の手をミズキに突き付けた。
ミズキはいよいよ逃げられなくなって、可哀想に真っ赤になりながら、恐る恐る悟の上着を受け取り…かけたところで、廊下側の窓から灰原の元気な挨拶が響いた。
ミズキはパッと手を引いてしまった。

「あっ!今日は家入さんと制服交換してるんですか?お2人とも似合いますね!」

硝子からIの札が上がった。ミズキも安心したようにふわっと笑う。下心の無さそうな明るい褒め言葉が女性陣にはウケたらしい。七海も嫌味なく褒めてミズキは素直に喜んだ。

その時、それを面白くなさそうに眺めてた悟が手に持ったままだった上着をミズキの肩に掛けた。
硝子の制服を着た上から羽織ったのでも分かる、身幅も着丈も大幅に余って、ミズキはバスタオルでも被ったみたいに悟の上着に着られた格好になった。
灰原の無邪気に落ち着いてたミズキはまた瞬時に赤面して、悟の顔を見られなくなっている。悟がミズキの顔を廊下側から隠すように手で遮った。

「灰原七海、ミズキのこと見たい時は俺に許可取ってもらえる?」

それ許可出すつもりないだろ悟。
それでも灰原が素直に了解しようとするのを、引き気味の七海が押してさっさと離脱していった。

「…なぁ」

ミズキが小さく震えたのが私の距離から分かった。

「幅、丁度良かった?」

ブンブンとミズキが首を振る。
悟がいつも触りたがっていた綺麗な髪が頬に掛かった。悟がその髪の内側に手を差し入れてミズキを上向かせた。

「好きな子が他の男に褒められて喜んでんのって、俺結構ムカつくタイプだったみたい」
「す、きな…?」
「そ」

「好きな子」と言い直して、悟はミズキを指差した。
やれやれ普段なら人を指差すなとか注意するところだけど、今回のケースは大目に見るよ。
ミズキの方はキャパオーバーで話せなくなっちゃってるけど、やっぱり脈はあるみたいだし。

硝子、ミズキを取られてムカつくのは分かるけど『あー煙草吸いたい』みたいな顔やめな?ミズキが私達の存在を思い出したら『お幸せに』って笑って、追い討ちかけてやろうじゃないか。



***

ネタポストより
高専時代で想いを寄せている悟と同級の夢主。 個々でデザインの違う制服のため面白がって硝子と制服を交換して着たことから他二人の制服も上着だけでもちょっと着てみたいという好奇心が。 大きいとは思ってはいたけれども、傑と並ぶと細身に見えていたことや自分も小柄というほど小柄ではないことから、思っていた以上にすっぽりと収まってしまったことでただでさえドキドキしていたところさらにドキドキ……夢主が自分の服にすっぽり収まってしまっている姿を見て悟も何とも言えない感情が。 じゃあ次は傑の、となったところで悟が待ったをかけるも真意を知らない夢主はなんでどうして(じゃあ七海や灰原の着るなど)となかなか納得せず、しびれを切らした悟が思いがけず自分の気持ちを言っちゃうお話。 (目の前には想いを告げてくる悟、着たままの制服からは悟の匂いでキャパオーバー寸前な夢主)

提供されたネタを読んだだけで何か夢を一話読んだような満足感がありました。ご馳走様です…!
キャラ視点で書くか全能の語り手でやるか迷った末に夏油さんがハマりました。
ネタ改変マシマシですみませんが、こんな感じでさしす+夢主がわちゃわちゃしてる夢がたまらなく好きです。

この話を更新したのが原作完結の前日だとここに書いておきます。

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