拍手再録》五条先生と猫の日
僕の恋人が呪いで半分猫になったらしい。
って聞かされたらさ、もう何て言うか男として考えることはひとつだと思うんだよ。不謹慎と言われようが何だろうが。
それで任務から戻った教え子たちの待つ部屋へ飛んでったわけだ。
猫ちゃんの耳が生えてるとしたらやっぱり黒いのかな、尻尾はすらっと細くてしなやかなんだろうなぁ…なんて妄想を膨らませてる間に部屋の前に到着、ワクワクしながら扉を開けた。
ら。
「みゃあ」
「………お?」
見た目まんまなんだけど?
「あっ先生、話いってる?何か見た目変化ないけど、呪いで中身が猫になってるっぽくてさ」
思ってたのと違うパターンのやつぅ…!
とはいえ、見た目はいつもの可愛いこの子のまま、ちょっと会話が出来ないけど見たとこ時間の経過で自然に戻りそうだし、抱っこして私室に連れて帰った。
猫ちゃんになってるからか、いつもみたいに恥ずかしがらずに抱っこさせてくれる。
どこかで聞いたことがある。猫が抱っこさせるのは移動に便利だと思ってるから、とかなんとか。
まぁ可愛い猫ちゃんの便利になれるなら何でもいいですよー、と。
「はい、おうちだよ」
部屋に放すと猫ちゃんはトトトっとベッドまで駆けていって、ぽかぽかの陽だまりの中に座った。
うん、癒しの風景。
さて僕は手を洗ってから、ソファで伊地知から押し付けられた資料に目を通してようかな…と紙の束を取り出した。その途端に、ソファの座面が僅かに沈む感覚。
見ると、猫ちゃんのまんまるなお目目が僕を見ていて、隣から手(もとい今は前脚)が僕の太腿を越えてしなやかな上半身が資料を遮った。
「ん、どうしたの?日向ぼっこは?」
綺麗な目は少し不満そう。『分からないの?』って言われてる気がする。
喉がグルグルと鳴った。
「…えっと、構ってほしいのかな?」
小ぢんまりとした口角が上がって目は愉快そうに細まり、柔い髪がすりすりと僕の首元に擦り寄せられた。え、かっっっわ…え?は?
資料は床に捨てた即捨てた。
「ごめんね寂しかったよね…可愛い猫ちゃ、」
スルッと、本当にスルッと、抱き締めようとした瞬間に可愛い子は僕の腕から逃げてしまった。
え、構って欲しかったんじゃないの?
どういう感じ?気まぐれさんか?と思って見守ってると、愛しい猫ちゃんはベッドに上がってさっきまでの日向にころりと寝転んだ。
お腹を天井に向けて背中をシーツに擦り付けるようにして、それから僕を見て一声「みゃあ」。
喉はまだ鳴っている。
「…お腹、撫でて欲しいのかな?」
「みぃ」
「ベッドが良かったの?」
「んに」
「僕が資料見てるのが嫌だったんだ?」
最後に満足げな声で、愛しい子は「にゃあ」と鳴いた。
「ちょっとごめんね」
猫ちゃん相手にどうかとも思ったけど、どうしたって相手は愛しい恋人なわけで、堪え切れずに僕はキスをした。
可愛い、愛しい、猫ちゃんになっても僕のことが大好きなんだ?それならお腹いっぱいに、愛情注いであげないとね。
器用にもキスをしながら喉はずっと甘えて鳴ってる。
「ん、かわいい、かわいいね…小っちゃな舌、見せて」
「みゃあ」
「いい子、そのまま」
キスをしながら髪を撫で、猫の喜ぶ顎下を擽り、背中から腰のラインを撫で下ろした。
いつの間にか喉の鳴る音が止んでいる。
「…っん、せんせ、」
やっぱり、この声で呼んでもらうのが好きだな。
「ん、どうしたの、…猫ちゃん?」
「も、もど、んぅ…もどったっ」
「んんー?僕は今可愛い猫ちゃんにおねだりされてお腹を撫で撫でしてたんだけど、あれぇ?」
僕が言うと、可愛い子のほっぺがみるみる赤くなってふいっと横を向いてしまった。
あぁ、いつものこの子。堪らないな。
「素直で甘えん坊の猫ちゃんはどこいっちゃったのかなぁ?嬉しかったのにな」
この子の綺麗なガラス玉みたいな目が、ちらっと僕を睨んだ。どうやったって可愛いだけだけど。
「…みゃあ」
可愛い恋人は少し不満そうに一声鳴いて、僕の首を引き寄せて、キスをくれた。
僕が教えたキスのねだり方。『もっとして』の伝え方。
それなら、目一杯応えてあげなくちゃね。
「…可愛い猫ちゃん、愛してるよ」