不死川実弥の場合(後々)
不死川さんとお付き合いするようになって、分かったことがある。

お巡りさんというのは大変なお仕事だ。夜勤があるのは勿論のこと、猛暑でも厳冬でも警邏するし、刃物を持った不審者がいれば生身で取り押さえなくちゃいけないし、かと思えば道端で寝ちゃった酔っ払いの相手をしたりとか。
守秘義務があるからと不死川さんはお仕事の話はしないけど、警察密着24時的な番組を見た私が「不死川さんもこんな感じなの?」って聞いたら「まぁなァ」と返ってきた。

夜勤のある不死川さんと会社員の私では寝起きする時間も違う。
単なるお隣さんだった時には気にならなかったものが、恋人となると大きな壁である。少しでも一緒の時間を捻出するためというので次第に片方の部屋に寝泊まりすることが増えて、今では隣同士の部屋を契約したまま半同棲の形に落ち着いている。

夜、ごそごそとベッドを抜け出す気配を感じて目を開けた。不死川さんが夜勤に出ていく時間だ。

「悪ィ、起こしたか」
「んーん…起きるつもりだったの」
「いっつも言ってんだろォ無理すんなって」

寝起きで温かい手が私の頭を撫でてくれる。
実はこれが起きる動機のひとつだというのは内緒にしておく。
不死川さんはクローゼットの近くの小さなデスクライトを、私から背けて点灯して静かに着替える。暗順応した目には眩しいけど、その様をこっそり見るのが好きだ。いつもテキパキとしている不死川さんが、すこーしだけ面倒臭そうにのそのそしてるのが、何だか可愛いのだ。まだ眠い猫さんみたいで。

着替え終わると不死川さんはまたベッドのところまで戻ってきてくれる。その時に私は起き上がる。

「じゃ行ってくんなァ」

このタイミングで「ん」の一声と共にハグを要求するのが好き。不死川さんは毎回応えてくれて、私の首辺りで大きく息をしてるから、何となく不死川さんの方でも好きな習慣なんじゃないかな。
ちょっとした悪戯心で目の前にある耳にキスをしたら、不死川さんはビクッと震えた後に痛いくらい抱き締める力を強くした。でも実際のところは絶妙に痛くない。

「コラ、仕事行けなくなんだろォが」
「いいこと聞いちゃった」
「夜勤の間辛ェんだよマジで」
「冷蔵庫にお弁当あるから許して」
「許したァ」

このお巡りさん、私に対しては判定がガバガバである。こういうところも好き。

いつもならそろそろ腕を緩めて頭を撫でて、「行ってくる」と言い直してから着替えの時に点けたライトを消して出ていく。けど今日は、不死川さんは私を抱き締めたまま片膝をベッドに乗り上げて覆い被さった。枕の上に頭が乗ると、不死川さんはそこで初めて腕を緩めて少し身体を離した。
遠い明かりで至近距離の顔に陰影が出来てて、情事の前みたいでドキドキする。
不死川さんが「アー…、ミズキ」と半端な声を出して目を泳がせた。

「…こりゃァ俺の同期の話なんだが」
「うん?」
「付き合って数ヶ月の恋人にプロポーズして引かれねェのは何ヶ月目からかって気にしてんだ」
「同期のひとが?」
「そォ、同期の奴が」

一応、真面目に考えてるフリみたいな顔はしておいた。けど、どうにもニヤニヤしてしまう。

「不死川さんの同期のひとの恋人さんはね、きっと今すぐでも嬉しいと思うよ」
「マジか」
「伝えておいてね」
「…言っとく」

不死川さん、そんな嬉しそうな顔しちゃだめだよ。私だってニヤニヤしないように頑張ってるのに。

不死川さんが一度キスをして私の上から退いて、改めて玄関に向かおうとする背中にお弁当のことを念押しした。「ありがとなァ」の声も背中も嬉しそう。
靴を履く音、玄関の開閉する音、外から鍵を掛ける音の後に、「ーーーッシ!」と声が聞こえた。抑え気味ではあったけど、聞こえちゃってますよ不死川さん。

不死川さんとお付き合いするようになって、分かったことがある。
お巡りさんというのは大変なお仕事だ。その大変なお仕事に従事する私の恋人はとても真面目で、優しくて、勇敢で、とても可愛い。

次に会うのは、私が会社から帰ってきた時になる。その時には「実弥さんただいま」って言ってみよう。どんな顔をするのか、楽しみで眠れやしない。



***


ネタポストより『シリーズの幼馴染が進学したらと隣の美人さんの実弥の続き』
とりあえず手の動いた隣の美人さんをば!
リクエストありがとうございました。


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