煉獄杏寿郎の場合(後々)
嵐の夜を経て、お隣の煉獄さんと恋人になった。
ただのお隣さんだった頃から煉獄さんはとても紳士的で優しい人だったけれど、付き合い始めてからというもの私が申し訳なくなるくらいに大切にしてくれてることが分かる。
そういえばひとつ驚いたことには、煉獄さんは結構歳上だった。7歳上になる。
初めて一緒にお酒を飲んだときにふと思い立って年齢を聞いてみて明らかになった。振る舞いから歳上だろうとは勿論思っていたけれど、煉獄さんのぱっちり大きな目だとか、お料理が出来なくてシュンとしてる様だとかが可愛らしくって、精々3つか4つ上だろうと思っていたのだ。

「お肌綺麗だし、お腹もぷにぷにしてないし、仕方ないです」
「何が『仕方ない』のか見えないのだが」
「煉獄先生がアラサーには見えないっていう話です」
「先生はやめてくれ…それより、飲み物を選ぶんだろう」

煉獄さんはカウンターの上にあるドリンクメニューを指さした。
週末、ショッピングモール内のシネコンは人でごった返していた。私が飲みたいものを言うと煉獄さんは私をベンチに座らせてささっと飲み物を求める列に並んだ。歳の差のこともあるのか、煉獄さんはいつも私にお金を出させる気がないのだ。
『出します・いいから』の押し問答はもう何度もしたから最近では諦めて、煉獄さんの苦手な料理を私が受け持つことでバランスをとっている。

しばらく待つうちに飲み物を手にした煉獄さんが帰ってくるのを見付けてベンチから立ち上がった。それに丁度かち合うタイミングで、私のすぐ横にいた女子高生たちが「あーっ!」と声を上げた。

「煉獄先生だっ!」
「私服だー!え、誰と来てるの?ドリンク2個じゃん」
「彼女!?彼女!?」

おぉ…何というタイミングか。
煉獄さんは両手にドリンクのカップを持って困ったように笑って、「公共の場では少し声を落とすといい」と言ってから、私にドリンクの片方を差し出した。…そう、差し出した。女子高生たちは一層興奮して、煉獄先生の指導を即行で忘れた。

「えーっ!彼女若っ先生やるー!」
「美人じゃん!」

現役女子高生のエネルギーには勝てず、私には曖昧に笑うしか出来ないのだった。
あれこれ質問攻めに発展しそうだったところを煉獄さんが諭してその場は治まり、これまた曖昧に会釈をして生徒さんたちとはそこで別れることになった。

「突然すまなかった、驚いたろう」
「圧倒されちゃったけど、素直で良い子たちでしたね」

チケットを渡してゲートを通って、目当てのスクリーンを目指しながら煉獄さんは少し心配そうに私を覗き込んだ。
確かにビックリはしたけど、煉獄先生の「こら、声を小さく」に「はーい」と返事を揃えて手を振ったのだから、やっぱり良い子たちだった。
…ただ、煉獄さんには聞こえなかったみたいだけれど、去り際に彼女らがこそっと発した言葉に、私は度肝を抜かれたのだった。
「煉獄先生ってどんなエッチすんのかな」だ。
女子高生…!!


結論から言うとね、生徒さんたち、私も知らないんですよ。
…と、夜になって煉獄さんのお宅(つまり自宅の隣)にお邪魔して、ソファで隣り合いながら、頭の中で昼間の生徒さんたちに回答した。
煉獄さんは図書館のシールがついた歴史書を膝に広げている。横顔がとってもセクシーで、私は『そういうこと』もしたいと思ったりするけど、煉獄さんは思ってなさそう。
嵐の夜には、無防備な姿で男の家に上がるななんて怒ったくせに。今だってその無防備な姿でお宅にお邪魔してますけど、叱らなくっていいんですか。私が横からしげしげと眺めていると、煉獄さんの手が本に栞紐を挟んで傍に置いた。

「…ごめんなさい、気が散りました?」
「いや、こちらこそすまない、退屈だったろう。…映画でも観るか」
「映画は今日観ました」
「そうだったな」
「あのね煉獄さん」
「うん?」
「膝に座ってもいいですか?」

煉獄さんがその大きな目を丸くしている間に、私は返事も待たず煉獄さんの膝に跨った。もちろん煉獄さんと対面して。煉獄さんが目に見えて動揺した。

「ミズキ、うん、落ち着こう、どうした」
「キスしてもいいですか?」
「それは、まぁ、…だがどうしたんだ急に?」

なんだか少し腹立たしいような気分がして、煉獄さんの綺麗な唇にむにっとキスを押し当てた。煉獄さんの身体は最初少し強張ったけれど、観念したように脱力して、その大きな手で私の頭を引き寄せてくれた。
煉獄さんの舌がするりと入ってきて、敏感な上顎をれろっと撫でて、思わず鼻に掛かった声が漏れてしまう。キスってこんなに気持ちいいの、とは煉獄さんと付き合って初めて知ったことだ。
粘着質な水音を残して唇が離れた。

「あのね、今日会った生徒さんたちが言ってたの。煉獄先生どんなえっちするのかなって」

煉獄さんの大きな目が私を見ている。

「煉獄先生がどんなえっちするのか、私におしえて」

この言葉が誘い文句として何点だったのかは分からないけれど、とにかく私にとっては精一杯だったのだ。
煉獄さんが私を抱き寄せてぎゅぅっと胸やお腹が密着した。勘違いでなければ、煉獄さんの胸はどくどくとすごい速さで脈打っている。嵐の夜に私を抱き締めたときと同じように。「君は」と耳元で煉獄さんが言った。

「俺と君よりも、君と生徒たちの方が歳が近い」
「…うん?まぁそう、かな?」
「それなのに、俺は君が可愛くて仕方がない」

煉獄さんの逞しい腕が私をぎゅぅぎゅぅと抱き締めてくれている。ちょっとした悪戯心で胸を押し付けるようにしたら、煉獄さんは少し怒ったようになって身体を引き剥がして、私をソファに押し倒した。

「全く…これでも葛藤したんだぞ。大切にしたいし、がっついていると思われたくない見栄もあった」
「煉獄さん、私とえっちしたいの?」
「したい、ものすごく」
「じゃあベッドに連れてって」

煉獄さんは私を軽々抱き上げて、壊れ物を扱うみたいにそっとベッドまで運んでくれた。
そこからはもう、生まれて初めて自分の身体が溶けるかもしれないと思うくらいどろどろに愛してもらって、気付いたら朝になっていた。
ベッドの上から手の届く位置に避妊具が準備されていた辺り、煉獄さんの言う『葛藤』も『したい』も本当らしかった。(疑うわけではないけれども)
今日の、違うもう昨日になった、生徒さんたち、煉獄先生はね、溶けちゃうみたいな気持ちいいセックスをするよ。


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