週末の夜は実弥さんと家のテレビで映画を観るのが好き。と言ったら、「お前1/3も観ねェで寝ちまうだろォ」と小突かれた。
「今日はどれにしよっか」
「観たことあるやつ、もしくは説明の必要がないやつ」
「よし、じゃぁこの観たことない難解そうなサスペンスにしよう」
「俺の話聞いてたかお前」
動画サービスで食指の動くものを探して、よしこれ!と選択して観始めた。
ソファに並んで座って、お気に入りのクッションを抱いて、実弥さんの肩に凭れると、「最初っから寝る気じゃねェか」と怒られた。だけどね実弥さん、顔がちっとも怒ってないし、声だって『仕方ねぇなァ』が副音声で入ってそうですよ、あなた。
映画が始まって登場人物が出揃った辺りで、案の定私の記憶は途切れている。
くぁ、と実弥さんがあくびをする気配で目が覚めたとき、画面にはエンドロールが流れていた。
私が「あ、終わってる」と言うと、実弥さんが横から私の頬を抓んだ。
「なんっでお前は毎回エンドロールでキッチリ起きんだよ実は起きてんのかァ?」
「多分映画1本分がちょうどいい睡眠サイクルで」
「映画観るのヤメロもう」
「ねぇねぇ今回はどんな話だったの?」
頬を抓んでいる手に擦り寄るようにすると、実弥さんの手はやっぱりナデナデと抓んだ部分を労わってくれる。そのまま私の寝ている間に映画で何が起こったのかわくわくしながら待っていると、やっぱり実弥さんは『仕方ねぇなァ』という感じの声で返してくれるのだ。
「…まずどこまで覚えてんだァ?」
さすが先生です。私が記憶を探って覚えているところまでを説明すると「序盤もいいとこじゃねェか」とまた怒ってない声で怒られた。
私はさながら小学校の分数で躓いたまま高校に入ってしまった出来の悪い生徒というところ。
実弥さんは私のいるところまできちんと遡って、順を追って、飽きさせないように楽しく、優しく、映画の内容を教えてくれる。実弥さんの説明がとっても上手で楽しくて、後日ひとりのときに実際に映画を観てみたら思ったより楽しくなかった、なんてことは1度や2度じゃない。
だから私は、実弥さんの説明を聞くために映画を寝るのだ。と言ったら多分、また怒ってない声で怒られる。
今回もこの出来の悪い生徒に、実弥先生は映画1本丸ごとキッチリ分からせてくれた。
「うん、いい映画だったねぇ」
「いっそ観てないやつが言うな」
「ねぇねぇ実弥せんせ?」
「何だよ」
「私と夜更かしする?」
「…言ったなコラ」
実弥先生はそうやってまた怒ってない声で怒って、私を優しくベッドまで連れていってくれるのだ。