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「夏油さん助けてください!」

中々に切迫した一言が、五条の推し兼恋人のミズキから夏油に投げ掛けられた。しかし、受け取った夏油は苦笑いを浮かべるだけ。それでもこれは彼が薄情だとか彼女の頼みを軽んじているというのではなくて、

「…とは言ってもねぇ、バレンタインを貰った男がホワイトデーにお返しをするのは普通のことだし」
「だって悟くん最近、外国の不動産とか調べてるんです。止めないと大変なことになっちゃう」

痴話喧嘩(?)だからである。

五条がミズキへの想いを実らせてからのバレンタインに可愛らしいチョコレートを貰った先月のことを、思い出すと夏油は胸焼けがする。付き合う前にもらったお歳暮かお中元のようなものとは比べ物にならない、恋人に贈る可愛らしいそれ、五条のニヤケ顔と惚気が止まらなかった。
その話はひとまず置くとして、問題は、あれだけ人生の幸福という幸福を噛み締めた五条悟が、全身全霊を以って臨むホワイトデーに何をするかという話である。十中八九、課金の制限が解除される日とでも思っている。

「どうせなら『あったらいいな』程度の夢でも悟に話してみたら?サトえもんが叶えてくれるよ」
「サト…例えば?」
「完全防音の個人スタジオ」
「すごい」
「付きのマイホーム15LDK都内」
「それは宿泊施設ですね。ダメです億単位になっちゃう」

夏油はケラケラと笑った。
五条が推しに課金したがるのは最早生理現象なので、断つのは不可能に近い。しかしそれを受け入れるには、彼女は良心的過ぎるのだ。この一見噛み合っていない2人が破局することなく惚気や痴話喧嘩を生み出し続けているのだから、結局相性は良いということなのだろう。或いは、彼女の懐が広い。

「そうだなぁ、それじゃ私からアドバイスをひとつ」
「!教えてください」

ピンと背筋を伸ばして聞くミズキのことを愛らしく思いながら、夏油は五条の攻略法を教えてやった。
聞き終えた彼女は感嘆の息をついて、夏油に丁重に礼を言ったのだった。





「悟くんの時間がほしい」
「み"っ」

文字通り殺し文句になった。
ホワイトデーまでまだ日数を残したある日、ミズキは五条がクルーズ船を購入検討中の画面を遮って、夏油の作戦を実行に移したのである。「お金で買えるものは要らないです。一緒にいてくれたらいいの」からの流れで、ソファの隣、上目遣い。五条には致死的だった。
五条はたっぷり3分間かけて、完結しない情報を必死に読み込んで咀嚼し終えると愛しい彼女のことをそっと抱き締めた。

「ありがとう…僕のこれからの人生全部あげるね」
「とりあえず1日だけのつもりで言ったんですが」

金銭が絡まなくても0か100しかない男である。
要求された1日以外は用無しという意味ではないことや、たまには2人でゆっくり過ごしたいという丁寧でいじらしい補足説明を受け、五条は改めて幸せを噛み締めた。

「僕の彼女が良い子過ぎて苦しい結婚するぅ…」
「いいですよ」
「……………ぇっ………………………???」

あまりにも簡単に了承されてしまい五条はまた思考停止した。ミズキにしてみれば五条からのプロポーズは初めてではないし、彼との付き合いがいつか終わるというのも想像できない。
その内に五条が水中で呼吸出来ないのを思い出したようにザバッと戻ってきて、「ほほほ本当に?!」と彼女に詰め寄った。「本当に」と彼女が返すラリーは5回続いた。

「ぇま"、待って、ん??僕いまプロポーズ成功した???」
「そうですね」
「マジ?ぁ、ウン確認もうやめる…は?え待って、僕のプロポーズこれで履歴残っちゃう感じ?」
「嬉しかったですけど」
「ヤダ、ヤダヤダやり直し!!こんな適当なの認めないから!!」
「男性側がそれ言うんですね…?」

履歴も何も、そもそも初対面で公共の電波にプロポーズを乗せたことを、五条は忘れている。
彼女にしてみればコース料理も夜景も宝石も、プロポーズに必須ではないのだけれど。

五条は俄然やる気になって、改めてスマホを覗き込んだ。

「待っててクルーズ船の上で花火とか上げながらプロポーズやり直すから!!海外に別荘とか買うし!!」
「あれ、話が振り出しに戻っちゃった…」

大き過ぎる買い物をやめさせるための策だったはずなのに。
とりあえず五条に購入を早まらないよう厳に言い聞かせて、ミズキは翌日夏油に同じ言葉で再度相談を持ち掛けた。
薄情な夏油は「新しいネタになるね」と笑った。



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