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検証:祓本五条は身に覚えのない浮気を問い詰められたらどうなる?

言ってしまうとこれは苦肉の策だった。

このバラエティ番組では、芸人のちょっとした悪事や悪癖を洗い出し、時には制裁を加えて『ちょっとスカッとする』映像を幾度となく放送して人気を博してきた。
あらゆる賞レースを総ナメにして年来の推しと結婚し、飛ぶ鳥を落とす勢いの祓ったれ本舗五条に、ちょっと痛い目見せてやったら盛り上がるのではないか…という、今回はそういう下世話な動機が出発点だった。

ところが五条を身辺調査しても、見事に何も出ない。

大きな買い物をしたと思ったら奥さんへのプレゼントで、女性に会う機会があっても「僕奥さんに誤解されたら死ぬから一切近寄らないでもらえる?」と鉄壁のガードを発動し、アダルトサイトのひとつも見ない。後輩芸人を派遣して好きなセクシー女優を聞き出そうともしたけれど、「ミズキちゃんと寸分違わず同じ顔と髪と声と身体つきで売れっ子歌手の女優っている?」と返された。「もう家帰って嫁さん抱いてください」と後輩芸人は言うしかなかった。「うん、そーするわ」だそうだ。調査に当たった番組スタッフはいっそ清々しい気分になった。

しかし、『祓本五条は推し活しかしてない』だと番組が成立しない。これでは単なる五条の愛妻家アピールではないか。
以上のような経緯で、火の無いところに煙を立ててみる方向に企画は路線変更となり、妻のミズキに協力要請があったのである。



「えっと…これ映ってますか?緊張する…」

自宅にわんさかカメラを仕込まれて、ミズキはそわそわと部屋を見回した。背の高い五条の視界を避けるように、カメラは比較的低い位置に集中している。

『視界良好、声も聞こえてんでー』
「はぁ…すぐバレる気がします…」
『緊張ほぐしとこか?イヌマキの宣伝してええで』
「あっLive Tour"I・N"が8月22日より開始となります。全国の皆さんとお会いできるのを楽しみにしてます」
『おぉー仕事スイッチ入るとすぐ緊張飛ぶ』
「はぁ…悟くん鋭いんですよ」
『戻ってもうた』

髪で隠れたイヤホンに、番組MCの笑い声が響いた。
ミズキは顔に手を当てたり二の腕を擦ったり、落ち着かない様子でソファに腰を下ろした。

『今回作戦は?』
「やっぱり悟くんは勘がいいので…『浮気してる?』って一回言ったらもう黙って顔を見ないようにしようと」
『おぉ…実際それが一番キツいかもしれんな』
「えっ…キツいですかね?可哀想?」
『あゴメンその作戦で続けて』

そうこうしている内に玄関の開閉する音が鳴り、五条の声が「ただいまー」と明るく言った。ミズキは慌てて深呼吸し、深刻そうな表情を作る。洗面所で手を洗う音がしてから、五条がリビングに顔を出した。

「ただいま、ミズキちゃん?」
「…おかえり」
「え…どうしたの、何があった?」

五条は鞄を床に放ってソファに急行し、ミズキの顔を覗き込んだ。罪悪感に駆られながら彼女は目を伏せ、ぽつりと、使命感を振り絞って声を出した。

「…悟くん………浮気、してる?」
「え………ない、ないよ、まさか。誰かに何か言われたの?」
「…」
「本当は大勢でいるのに女優と僕の2人だけみたいに切り取られた写真とか?そうならないように立ち位置には気を付けてたんだけど…」
「…」
「ねぇ、何か言って?殴ってもいいから嫌いにならないで…何があっても全部誤解なんだよ、僕はミズキちゃんしか好きじゃない」
「…」
「スマホ見る?カーナビの履歴とかクレジットの明細とか、何でも見ていいよ、だからお願い、こっち向いて」

五条があまりに悲痛な声を出すのでミズキは罪悪感に耐えかねて、彼の方を見てしまった。五条はミズキの手を取ったままソファの足元に跪いて、美しい青い目で必死に無実を訴えていた。

「何したら信じてくれる?離れてる間5分に1回連絡するとか、GPS付けてもいいし」

ミズキは首を振った。五条は本当に(そして即座に)やりかねない。動揺した彼女はほんの一瞬目を泳がせた。五条は変わらず、彼女の手を握って懇願している。

「お願いだから何かさせてよ。僕の預金残高全部、ミズキちゃんの口座に移していい?そしたらクレジット使えなく出来るし、スマホ決済のオートチャージも切れるし…毎日昼飯代300円とか渡してくれたらそれで何とかするから」
「だ、だめっ、悟くん、落ち着いて…!お昼ご飯300円って無理があるし」
「ミズキちゃんは優しいね…でも浮気してないのを信じてほしくて僕が勝手にやることだから。ねぇそもそも、僕ら結婚してるんだよ?だから僕のお金はミズキちゃんのお金なの。僕がミズキちゃんのお金を無断で使って他の…好きでも何でもない、『多分メス』ぐらいの認識の個体に、エサやったり何か買い与えたりすると思う?そんな無駄使いするぐらいならミズキちゃんに貢ぐ枠をもうちょっと広げてほしいなぁ」

五条はミズキの足元に跪いていたところからスッと立ち上がり、戸棚の方へ足を向けた。迷いなく歩み寄って書籍の隙間に手を差し入れて『それ』を掴み、ローテーブルに、レンズを下にして置いた。次はカーテンの足元へ。同じように持ってきてテーブルに伏せる。次はテレビボード、家具の隙間、キッチンカウンターの物陰からも同様に。五つ子のように同じカメラがずらりと並んだ。

「まだある?」

五条がニコリと笑い、ミズキは首を振った。
小型カメラが肝心のレンズを伏せてテーブルに並べられた様は、何となく断頭台を思わせる哀れさがある。

「悟くん…ごめんなさい私、」

五条が唇の前に人差し指を立てた。

「ミズキちゃん声出さないでね。他の奴に聞かれるの嫌だから」

五条の手がミズキの髪に差し込まれ、イヤホンを抜き取ると断頭台に並べた。それからたっぷり30秒ほどの沈黙、終わると、「寝室に行っててくれる?」と五条の声がして、足音と扉の開閉の音、カメラの一台が明転した。

「もしもーし、4?8?」

イヤホンを装着する五条が大写しになった。
ちなみに数字は局の確認である。MC芸人は番組名を白状して丁重に詫びた。

『イヤもう本当…お見事で』
「とりあえず正座してもらっていいスかね」
『あっハイ』

MCはモニタールームにていそいそと正座をした。対する五条はソファで脚を組む。正座が先輩、脚組が後輩という構図が出来上がった。

「僕結構怒ってんですけど、理由分かります?」
『今回は我々の軽率で不適切な…』
「そういうのいいんで」
『俺一応先輩やぞ』
「ア"?」
『申し訳ございません存じません』
「丁寧なSiriじゃん腹立つ」
『五条、1個だけ聞いてエエ?』
「聞くだけ聞こうか」
『嫁さんに貢ぐ枠ってなに?』

五条がミズキにプレゼントをする金額の毎月の上限である。その枠の小ささについて五条は不満を溢し、次の番組企画を自らの希望通りにすることで手打ちとした。

検証:祓本五条は好きなだけ嫁に貢いだらいくらになる?

この後、満面の笑みの五条から次の企画を明かされたミズキは悲鳴を上げた。


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沈黙の30秒間に何してたの?っていう話です。



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