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祓ったれ本舗の2人は毎年2月中旬、チョコレートを見るのも嫌になる。
元々甘い物をそう好きでもない夏油は勿論のこと、甘党の五条でさえ、事務所に届く大量のチョコレートにはゲンナリするのだ。デパートで買ったような高級なチョコレートに始まり手作りのお菓子やら腕時計やらアクセサリーやら手紙やら、色とりどりの包みが通称『仕分け部屋』に溢れ返る様は壮観である。であるけれども、手に余る。
それで、祓本の所属事務所ではバレンタイン後にギフト解体山分け大会が催されるのが、彼等の人気に火がついてからの恒例になっていた。

さて問題の2月中旬。
夏油はピンの仕事で訪れたテレビ局で、偶然にも相方五条の推しと遭遇した。新春特番で共演して以来である。
夏油は共演するまでイヌマキのことを五条の日々発信する推し情報で知る程度だったけれど、実際に対面したミズキはとても良い子だった。スレたところがないし穏やかで礼儀正しく、良い意味で全く売れっ子歌手っぽくない。育ちの良いお嬢さんという感じだった。

彼女が突然「あっ」と声を上げた。

「こんなにタイミングよくお会いできるんなら、直接渡したらよかった…」
「何を?」
「バレンタイン、事務所に送ったんです」

夏油はあわや悲鳴を上げるところだったのを無理矢理堪えた。人ってこんな一瞬で冷や汗でシャツをじっとりさせられるんだね、なんて知りたくもなかった人体の不思議に触れた。
もしも五条の推しからのプレゼントと知らずに事務所の誰かが解体して我が物としていたら、そしてそれを五条が後から知ってしまったら…と考えると居ても立っても居られず、夏油は挨拶もそこそこに事務所へ急行した。夏油の嫌な予感が当たると死人が出る緊急事態である。


夏油が事務所に駆け込んだ時、五条は仕分け部屋で、一心不乱に写真を撮っていた。あまりにシャッター音が途切れないので、五条が写真を撮っていることを目視するまで夏油はそれがシャッター音だと気付かなかった。
五条がスマホカメラを向ける先には蜂蜜色の可愛らしい包みがひとつ。
夏油は最初、五条が満足して撮影を終えるまで待つつもりでいたのだけれど、五条が何故か動画を撮り始めたので軽く頭痛を覚えて待つのをやめた。

「…悟」
「何」
「静物を動画で撮ってどうする」
「今のこの空気を残したいんだよ馬鹿」
「シンプルな罵倒で来たな」

とにかく、死人は出ずに済みそうである。
五条は例年なら仕分け部屋には近付きもしないくせに、動物的な勘なのか強運によるものか、ミズキからのプレゼントと思われるものをしっかり確保していた。
夏油は一瞬、五条が事前に彼女から事務所に送ると知らされたのかと考えて、すぐに自ら否定した。そんなことがあれば五条は確実に自分から受け取りに行くと言い出すし、ブラジルに置いてきたと言われれば秒で飛行機に飛び乗る男である。

「と言うか…この数の中からよく見付けたね。分かりやすく名前でも書いてあったかい」
「?包み見りゃ分かんだろ」
「ごめんちょっと何言ってるか分かんない」

夏油は相方のことをちょっと本気で怖いと思った。
そうしている内に五条のスマホを持たされ(動画撮影は継続されていた)、彼が震える手でリボンを解く様を写していると、取り出したメッセージカードには本当にミズキの名前があった。針に糸を通すがごとき大正解であるが、夏油は今更驚きもしない。
カードに綴られた内容は端的に言うと感謝の言葉で、夏油にしてみれば分かりやすい義理チョコ、むしろお中元やお歳暮の類だった。それでも五条の感動ぶりは推して知るべし、彼は夏油からスマホを引ったくって写真撮影を再開した。

「はぁぁぁ尊さの塊…チョコ…僕のために…世界って美しいなマジで一生大事にする」
「期限内に食べな」

ちなみにカードには『祓ったれ本舗さん』とあるのだけれど、夏油は半分の所有権など主張するつもりは勿論無い。

「傑どうしよう、ホワイトデーの相場って3倍返しなんだろ?このチョコの3倍って僕の資産で足りる?使ってないマンションとか売ろうかな」
「確実に引かれるからねそれ。食事に誘うぐらいにしなさい」

夏油はこの時、無難に『食事』といっても五条はどうせ引かれるほどの高級店にミズキを連れていくに違いないと思った。数ヶ月後、五条が本当に一世一代の恋を実らせて推しと付き合い始めるだなんて、考えもしない。



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