「私なら七海さんに朝食を作らせたりしないのに」



※猪野くん視点です。


七海さんにはそりゃーもう美人の恋人がいて、俺は数えるほどしか会わせてもらったことがないけど、めちゃくちゃ優しい。ミズキさんという。
笑顔可愛い、お嫁さんにしたい感じっすね、と以前七海さんに言ったら結構露骨に嫌な顔をされた。俺が七海さんの恋人に惚れるなんて有り得ないのに。

適当に近場にいる連中が集まった飲み会の場だった。七海さんとミズキさんもいて、七海さんは酒が入ってもいつもの冷静な顔を崩さない(そこがカッケーのだ)けど、常にミズキさんの隣に陣取っている。そりゃーね、こんな美人の彼女いたら俺だってそうするわ。
ミズキさんの方は酒が入って笑顔が緩くなって(それがまた可愛いんだけど)、オフの七海さんのことを少し教えてくれた。

「建人くん、サンドイッチ作るの上手なの。ホテルの朝ごはんみたいにしてくれるよ」

アーーーぽい!名前分からん葉っぱとか凝った切り方の果物皿に乗せてそう!おしゃれな人はおしゃれなもん食ってんなやっぱり!!
「いーっすね!」と俺が言ったのは世辞でも何でもなく、本心だった。

ところが、俺の隣に座った女(名前なんだっけ、補助監督だ)はそう思わなかったらしい。
ミズキさんがトイレに立ったタイミングでテーブルに身を乗り出して胸の谷間を作り、猫撫で声を出した。

「彼女さん朝弱いんですかぁ?七海さんいつもお忙しいのに、朝ごはんの準備なんて大変そう…」

アッ地雷の臭いするこの女。
俺は何となく女から拳一個分ほど遠ざかった。

「お気遣いなく。好きでやっていることなので」

七海さんは相変わらずクールだ。カッケェなぁ。
のに、女は食い下がる。

「私なら、疲れてる七海さんに朝ごはん作らせたりしないのにぃ」

谷間寄せて、鼻にかかった声で、小首傾げて上目遣いって、そりゃ男は大抵それ好きよ。でもさぁ脈無しは察した方がいいっしょ。心電図だったら下の方で直線になってるやつだぜアンタ。
七海さんがフー…と溜息を吐いた。

「繰り返しますがお気遣いなく。貴女には関係のないことですから」
「でもぉ」
「それに、」

七海さんはゴトッと強めにグラスを置いた。

「彼女を朝動けなくさせているのは私なので」

わぁ、……うん!…わぁぁ!
そこへトイレからミズキさんが戻ってきて「ただいまぁ」と緩く笑った。

「あっ猪野くんグラス空っぽ。次なにする?」

あざっす!さすが七海さんの彼女さんっつーか、もう!ミズキさんは俺の隣の女にもドリンクメニューを差し出した。人徳の差見えちゃうね。

七海さんはミズキさんが座る時にさりげなく手を回して腰を抱き寄せた。大好きじゃん七海さん大好きじゃん!!ミズキさんもよろけたりしない辺り慣れてんなコレ!!『いつもこうです』みたいなね!!

「あー…一応聞くけど何飲みます?」

飲めねぇだろなと思いつつ、俺からも隣に聞いておいた。首を振られた。だろーね。

それから俺は店員を呼んだ。
店員さん!案外酔ってる七海さんにチェイサー!ミズキさんにサングリア!俺にはジントニックください!
あと!俺の推しカプを!是非見ていって!!







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