京都姉妹校交流会 後

交流会は結局中止となった。

禪院直哉が二度目の重傷を負った上に、ミズキは現場では気付かなかったけれども他の京都校生らは全員漏れなく夏油と彼の呪霊にボコられて戦意喪失していたのである。
五条も今回は術式を使わずシンプルな暴力で直哉をボコっていて、昼時になってミズキから「悟さーん、ご飯行きましょ」と声を掛けられて何となく切り上げたという有り様だった。

ミズキと並んで歩きながら、五条はコキコキと首を鳴らした。

「あーあ、やってらんねー。今回マジで時間の無駄」
「うぅん否めない」
「あっちが煽ってきたから喧嘩買っただけなのにさ、終わってみたら俺怒られただけじゃん」

下顎を突き出すようにして五条が不貞腐れて見せると、ミズキはふと立ち止まって彼から数歩遅れた。

五条は基本的に気が短いし喧嘩っ早い。夏油ともちょくちょく派手な喧嘩をしている。しかし今回のような、本当に相手を殺してしまいそうなほど感情を乱す様はミズキにとって初めてだったし、驚きでもあった。
そのきっかけが禪院直哉のミズキに対する侮辱だったというのだから、彼女にとっては胸がむず痒いような思いがするのも無理からぬ話である。

きっと御三家間の緊張関係だとかプライドの衝突があるのだろうと、ミズキは自惚れを押し込めた。偽物とはいえ自分の婚約者への侮辱を許しては嫡男の名折れ、呪術界ではさもありなんというところだ。

「おいどーした、」

数歩先で振り向きかけた五条にミズキは駆け寄って、その広い背中に額を押し当てた。

「悟さん、ありがとう」
「、お、ぉ」
「私のことで怒ってくれて」

ミズキがもしも五条と偽の婚約関係を結んでいなかったなら、五条が自分のことを好きになるはずがないというフィルターを通さずに見られたなら、あるいは今彼の背中が緊張で強張っていることや心臓が常より随分早く脈打っていることにも気付くことが出来たかも知れない。
名残惜しかったけれど自分で引いた線を踏み越えないために、ミズキは五条の温かい背中から離れて隣に並び直した。

「ご飯行きましょ、お腹空きました」

にこ、と努めて明るく笑ったミズキに対して、五条はすぐに言葉を返せなかった。会話として成立する回答例はいくつか頭を過ったけれども、そのどれもが彼の気持ちを正しく表してはくれなかったから。
五条が言葉に詰まっている内にミズキは前方に硝子の姿を見付けて駆けていってしまった。

硝子は駆け寄ってきたミズキを抱き止めてやって、その頬が赤らんでいることや、恥ずかしがるような落ち着かない表情を見て『お、とうとう告ったか?』と一瞬期待した。しかし後から来る五条の微妙な表情を見ればそうではないらしいことはすぐに知れて、『やれやれ恋愛童貞め』と内心で溜息を吐いた。

好きだと素直に言ってしまえばいいのだ。せっかく禪院直哉が身体を張って(意図せずだろうが)当て馬になってくれたのだし、偽の婚約者ではなく本当に大切だからミズキへの侮辱が我慢ならなかったと伝えてしまえば、喜ばない女などいるものか。
ミズキにしたって鈍すぎる、と硝子は目の前の柔らかな髪を撫でてやりながら苦笑いを噛み殺した。どうせ五条がブチギレたのは御三家間の鍔迫り合いの延長とでも思っているのだろうけれど、五条は家名のために動くような男ではない。その部分だけは五条の比較的マシな点だと硝子は思っている。
五条が自身に降り掛かった不快に対して反発する場面はこれまでいくらでもあったけれど、他者への侮辱を動機にしてここまでキレるとは、硝子にとっても驚くところだった。

禪院直哉も1年生だということだから(随分可愛げのない1年生がいたものである)、彼は来年も東京校へ来るだろう。
硝子は交流会のことをミズキに教えた時に言った「まぁ全員参加でもミズキのことは五条が出させないって」がどうやら来年実現しそうだと思いを巡らせた。きっとどこかの部屋に匿って、禪院直哉には姿も見せてやらないに違いない。
そしてその時にはミズキが不参加を言い渡される理由を正しく受け取れるように、告白のひとつでもしておけよ恋愛童貞め、と内心で五条を罵った。




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