中学1年の伏黒恵について

「何も言わずに最後まで聞け」
「何いきなり」
「そこまで言って面白くなかったら逆立ちで職員室一周ね」
「ウチらの伏黒くんについて」
「「聞きます」」
「良し。さっき校舎の裏で伏黒くんが電話してるのを遠目に見かけたから盗み聞き一択だったの。相手はゴジョーさん?とか言って多分男性でさ。今日懇談あったじゃん、てことは伏黒くんのお母様いらっしゃる?って思って緊張してたんだけど」
「無駄な緊張…」
「黙れ?いやだってあの伏黒くんのお母様だよ?超絶美人に決まってんじゃん。お父様似の可能性もあるけど、家庭のDNA偏差値高くないと伏黒くんは生まれないじゃん」
「それはそう」
「伏黒くん電話のゴジョーさんに対してめっちゃキレて、『なんでミズキさんが来るんですか、何考えてんだアンタ』って怒鳴ってて。怒っても美人だったけど」
「ミズキさん誰?」
「そのうち電話終わって、伏黒くんが別の人に電話かけ始めて。通話中に着信あったのかな。で電話の相手に『すぐ行きます。正面玄関出て左に折れたところならあんま人がいないんで、そこで待っててください』って」
「流れ的に『ミズキさん』じゃんソレ。懇談終わったって?」
「多分ね。でこうなったら顔拝んでやろうと思って人生で一番速く走ったよ私」
「努力のポイント間違ってる」
「黙れ?続き聞きたくねーのか」
「申し訳ない続けてください」
「したらさ、ウッッッソでしょマジで言ってんのハァァ実在?コレ実在??みたいな、もんのすごい、とんでもない、美人が、いた………」
「マジか伏黒くんの親戚かな?芸能人で言ったら誰?」
「いやもう芸能人とかじゃないのよモデルとか女優とかじゃなくて、天使?女神?下界に降りてきて大丈夫?みたいな…正直まだ目の錯覚だったんじゃないかって思ってる…」
「そっかそれでさっき放心状態の保護者が何人か歩いてったんだ、理解」
「それがさどう見ても20代だったんだよ、伏黒くんとどういう関係?叔母?従姉妹?」
「従姉妹が懇談来ないでしょ」
「叔母さんかなぁ」
「オバサンはやめて多分天罰が下る」
「ウッス」
「その超絶美人と超絶美形の伏黒くんは仲良く並んで帰っていきましたとさ…」
「写真ないの写真」
「撮れるわけねーだろ昔話だったら覗き見に気付いた女神が男を蜘蛛に変えましたみたいなやつだぞ」
「お前の勇気は忘れない」
「蜘蛛にされてんじゃん私」





「やっほー恵、久しぶりぃ」

予告なく玄関を開けて、五条は彼には小さなドア枠を潜るようにして入ってきた。
恵は制服のブレザーを脱いだだけの格好でミズキとお茶を囲んでいたところから、ぎろりと五条を睨み上げた。

「電話でも言いましたけど何考えてんですか。ミズキさんを懇談に出させるなんて」
「僕が出た方が良かった?」
「要らねーって言ってんですよ」
「また喧嘩したんだって?恵」

五条が長い長い脚を折って、ミズキの隣に腰を下ろす。

「恵くん、私が来たいって言ったの。急にごめんね」

ミズキに謝られると恵は強く言えなくなって、苦い顔を伏せてしまうしかない。
五条にとっても突然のことだったのだ。一昨日の夜、恐らく津美紀から相談を受けたのだろうミズキが懇談に出ると言い出した。

「僕は別に喧嘩するなとは言わないよ、悪いことだとも思わないし。でもさ、その辺の不良未満のガキどもがお前と対等に喧嘩出来るわけないじゃん。ただの制裁になるでしょ」

そのことは恵も承知していて、ただ、彼の視界で薄汚い真似をする輩に制裁を加えたとして何を咎められる理由があるのかと反感を抱くのである。正義を振り翳すつもりはないが、鬱陶しいゴミを掃除して何が悪い。
腹の底に腐った感情が溜まる。

「恵くん」とミズキが呼んだけれど、彼女の目を見ることは恵には出来なかった。

「目の届く範囲全部の掃除なんて、しなくていいの。汚いものを許せないでいると苦しくなってしまうから。ただ津美紀ちゃんは、あと私もね、恵くんが苦しいのは嫌って思ってることだけ、覚えていて」
「あ僕もー」

ミズキの声は不思議と恵の感情を逆撫でせず、するりと腹の中にまで入っていく。何とも軽薄に乗っかった五条のせいで雰囲気は台無しになってしまったけれども。
恵は照れ臭いような腹が立つような微妙な気分になって、短く溜息を吐いた。

「じゃ五条さん、不良未満のガキどもが今日ミズキさんを盗撮してましたけどアンタ掃除しないで放っとくんだよな」
「世界から消えるべき悪じゃん掃除行くよ恵」

すぐに腰を浮かした五条をミズキが引き留めた。
そして翌日には恵が出向いてしっかり制裁を加えた旨を、ミズキは学級担任から電話で聞かされることになる。ただ津美紀も、この件については恵の行動を支持するとのことだった。
ミズキは自分が出しゃばったのが良くなかったのだろうかと気を揉み、硝子に相談し、結局彼女からも「そりゃ仕方ない」と笑顔で済まされることになる。




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