温め合って眠る小さな動物
※名前ありの子供が出ます。
「とうさん」
か細い声と共に寝室の扉が開いて、五条とミズキはパッと距離を取った。ベッドの中で、五条が妻のボタンの2つ目を外したところだった。
布団に隠れて衣服を整えるミズキを庇って、五条がベッドから出た。
「お前どうしたの、」
『珍しいね』と続けようとして途切れた。理人が父親の腰にぎゅっと抱き付いたのである。
理人は父親譲りの早熟で自立心も旺盛、4歳から夜は1人で寝るようになっていた。体調不良だとかやむを得ないことで両親の寝室を訪ねることは今までに何度かあったけれど、そんな時に彼が呼ぶのは決まって「お母さん」だった。
「理人、どうしたの?」
いつもと様子の違うことに気付いたミズキもベッドから出てきて、父親の腹に抱き付いている理人の頭を撫でた。問いかけられても返事をしないで、理人はただ五条の固い腹に額を押し付けている。ミズキに返事をしないというのは理人にはとても珍しい。
「怖い夢を見たの?」
父親の腹にくっついたままの頭が僅かに上下したように思われた。ぎゅううっと細い腕にも力がこもった。
「お前も一緒に寝る?」
五条の声が接した腹から理人に伝わって、小さな頭が今度ははっきりと頷いた。五条は理人をひょいと抱き上げるとベッドに入り、後に続いたミズキのことも布団に迎え入れて、幼子を挟む形で横になった。
いつもなら必ず母親の方を向く理人は、今日は頑なに父親の胸板に顔を埋めている。
ミズキが理人の背中側から、小さな頭を撫でた。
「理人、大丈夫よ。お父さんはここにいるよ」
五条の大きな手が小さな背中をとんとんと叩いてやり、ミズキは理人がほんの赤ん坊だった頃に歌っていた子守唄を小さく歌った。
そうしている内にほどなくして、五条にしがみつく手から力が抜けた。
「…寝た?」
「みたいですね」
五条とミズキは顔を見合わせてふっと力を抜いた。
「珍しいね。いつもママばっかりなのに」
「不安になったんでしょうね」
「あれ、もしかして今日って朝までこのまま?夫婦のイチャイチャタイムは?」
「順延ですね」
「ウソー…」
囁き声ながらしっかり落胆の色をした五条の声に、ミズキはくすくすと笑った。
日頃、しゃんと起きている時には照れて否定するけれども、理人はきっと母親と同じくらい父親のことも大好きなのだ。五条の大きな手にくしゃくしゃと頭を撫でられると、鬱陶しがるふりをしながら誇らしげな顔をしていることをミズキは知っている。
「理人はお父さんが大好きだもんね」
「まぁお母さんとカレーの次ぐらいには好きなんじゃない?」
「また、もう」
「お母さんは?お父さんのこと好き?」
「好きですよ」
子どもの体温が布団に移って、ぽかぽかととても温かい。
「六眼じゃなくても最強じゃなくても、私も理人も悟さんのことが大好き」
五条の長い腕が、ミズキと理人を一緒に抱き込んだ。温め合って眠る小さな動物のよう。
理人の頭の上で五条はミズキにキスをした。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
柔くて温かい幸せのかたち。
***
ネタポストより『理人君とお父さんの絡み』
2024年5月27日 本誌辛すぎ問題への平和的抗議