このまま春まで眠ろうか

※直接的な表現はありませんが生理の話です。




少し熱っぽいので今日は休むとのことだった。ミズキの話である。朝、出張から戻った五条が学内にミズキの姿が見えないことに気付いてメールを入れて、その返信だった。

(何℃?何か要るもんある?)
(微熱です。移るといけないから大人しく寝てますね)

何となく言外に見舞不要と言いたげな雰囲気を五条は感じ取り、その上で彼女の意図を却下することにした。学生だけど夫婦なんだし看病ぐらい当然でしょ、と彼は思う。それに、体調不良の時に頼ってもらえない甲斐性無しというのは不名誉である。

ところが五条が自室に出張の手荷物を置いたところでまた任務要請が入り、入ったばかりの門からまた出ていくことになった。夕方までかかると目算されていたその任務を彼は昼過ぎには片付け、運転する補助監督に後部座席から圧を掛けて帰るスピードを上げさせて、日の落ちる前にどうにか高専に戻ったのだった。
寮の談話室を抜けて堂々と女子棟に入ったところで、五条は硝子に呼び止められた。

「ソレ、見せて」

硝子の目は五条の持つドラッグストアの袋に向いている。帰路の途中で補助監督に車を停めさせて買い漁った風邪の応急セットがその内容で、五条が素直に差し出すと硝子は中身を軽く確認して「ちょっと待ってな」と言い残し、一度部屋に引っ込んですぐに戻ってきた。

「今日必要なのはそっち」

硝子の渡してくれた袋には痛み止めとカイロが入っていた。

「冷たいものとカフェインと砂糖は避けた方が無難だけど、食欲があれば食べていい」
「成程ね」

ミズキが見舞を断りたがった理由が腑に落ちたのだった。


五条の控えめなノックに掠れた声で返事があって、彼が扉から顔を出すとミズキは布団を被って隠れてしまった。

「勝手に来てごめんね」

布団の丘が軽く揺れ、何となく中でミズキが首を振ったらしいことが外から見て取れた。

「今日はだめなんです、おかしいの」
「そんなに痛むの?痛み止めは?」
「お昼に飲んで…あんまり、痛くはないです」

五条は頭の中で我慢強いミズキの『あんまり』を補正しつつ、ベッドに歩み寄って床に膝をついた。

「理由もないのにめそめそしちゃって…だめ、なんです、顔見せられない」
「そういう時に頼ってもらえんのが旦那の特権でしょ?」
「悟さんは忙しいの」
「五条術師の本日の営業は終了しました。ミズキの旦那に戻りまーす」
「………」
「ね?顔見せて」

布団の上から五条の手がミズキの頭を撫でると、彼女の目から上だけが遠慮がちに覗いた。その目元に涙の跡を見付けたことに五条は敢えて触れなかった。

「ただいま、ミズキ」
「…おかえりなさい。横になったままでごめんなさい」
「それより僕が何したら嬉しいか教えてよ。何か食べられそう?腹に何か入れて薬飲んで、それから」



五条の買ってきた中でゼリー飲料は役に立った。小さな飲み口を吸うミズキの顔がいつもより青白いので、病気じゃなくてコレって大変だなと五条は思った。同時に来月の予定日辺りを頭の中のカレンダーでマークして、多少なり時間を作れるように算段する。
ミズキは結局ゼリーを一口二口飲んだだけで痛み止めを服用するとすぐにベッドに潜り込んだ。

五条はベッドの傍らに膝をついてミズキの頭をやんわりと撫でた。

「2週間ぐらいまともに会えてなかったよね」
「…はい」
「寂しかったなぁ。僕らまだ新婚なんだけどって上層部に文句言ってやろうかな」
「上の人たち困っちゃう…」
「ジジイが困るのとか興味ねー」

ミズキが力の抜けた様子で笑った。五条は身を乗り出して妻の頬や額にキスをした。

「ね、何か僕にやってほしいことある?夕飯で食べたいものとか…掃除洗濯の類でもいいし、映画観たいとかさ」

ミズキの髪を撫でながら五条が言うと、彼女は少し躊躇してからぽつりと「抱っこ」と零した。
それに対して五条は咄嗟に「え」と返してしまい、ミズキが臆病な魚のようにすぐに要望を引っ込めようとするのを察して慌てて訂正をした。

「違う違う、ごめん。可愛くってついね?勿論いーよ。すぐ着替えてくるから、」
「やだ」

ミズキの細い手が、離れていこうとする五条の袖を引き留めた。

「いかないで」

小さな、小さな声だった。枕に半分顔を隠すようにして、潤んだ目で、辛うじて声になったという程度の。
五条は堪らず「ン゛ッ」と声を噛み殺し、その場で上着を脱ぎベルトを外して、ベッドの中、ミズキの背中側に潜り込んだのだった。

華奢で柔らかな身体をすっぽりと抱き込んで髪に頬を寄せると、看病だというのを一瞬忘れて五条はこの上ない癒しを得た。いや僕が癒されてどーすんの、と勿論すぐに我に返ったのだけれど。

「痛み止めってどれぐらいで効いてくるの?」
「15分くらい」
「ん。僕喋ってた方がいい?静かにしとく?」
「お話してほしいです。悟さんの声、すき…」

1日痛みに耐え続けた後で五条の体温に包まれて、ミズキはいつになく甘えが緩んでいる風だった。五条の口から2度目の「ン゛ッ」が出て、ミズキが不思議がるのを誤魔化してから、彼はミズキの手を握った。布団に入ったばかりでまだ冷たい。

「いつもこんなに辛いの?今まで知らなくてごめんね」
「いつもはこんなじゃないです。自分でもよく分からなくて…」
「怖かったでしょ。来月からはなるべく一緒にいるから」
「…ほんとに?」

ミズキの肩がぴくりと揺れ、彼女が小さく振り向こうとしたことが五条には分かった。

「楽しみになっちゃう」
「あ゛ー…ねぇわざと?エッチ出来ない時に死ぬほど可愛いこと言ってくんのわざと?」
「ふふ」
「はい確信犯、通報しよっかな人権保護団体とかに」
「何て説明するの?」
「奥さんが生理中でエッチ出来ない時に可愛いこと言うので辛いですまぁ普段から可愛いけどな」
「電話切られますねきっと」

ミズキがまた笑った。
冗談が言える程度には症状が和らいできているらしいことに五条は安堵した。彼には生理痛の実感も痛み止めの効果も分からないので、観察と推測しか術がないのである。

その後も他愛のない話を続ける内、ミズキは夫の体温にくったりと身体を預け、徐々にとろとろと心地良くゆっくり瞬きをするようになっていった。
五条は段々と声量を落としていき、ミズキが眠ってしまうと髪にキスをしてそっと「おやすみ」を言った。



***

寒いと痛くて寂しいとつらい

ネタポストより『風邪を引いた主人公(or五条)を看病する五条(or主人公)、フローレスの二人』
【ふわふわの寝床】と立場を逆にしました。




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