ノーチラス

「貴方は呪術を生きるため何かを守るために揮うのではなく、ただひたすら自分を満足させるために行使していた変態でしたから」

五条はほんのり傷付いたような複雑な顔で七海を見た。え、そこまで言う?とでも言いたげで、かつ、若干の自覚もあるような。
しかし五条にも言い分がある。

「失礼だな、僕ミズキのことは誠心誠意守って愛してきたつもりだよ」
「貴方のそれは愛情ではなくおぞましい執着というんです。彼女のことをほぼ自分の一部と思っているのだから自己愛と言ってもいい」
「あー…一部ってか全部だったかもな」

七海は『それ見たことか』とばかりに溜息を吐いた。あと、ミズキに同情した。
そこへ、軽い足音が近付いてきた。

「悟さん」

五条がパッと顔を上げて笑った。

「ミズキ!」
「追い付けてよかった」

ミズキは嬉しそうに五条の前まで歩いてきた。彼女もまた、高専に在学していた時の服装容姿に戻っている。
ミズキは五条の隣の夏油に優しい微笑みを向けた。

「夏油さん、会えて嬉しいです」
「ミズキ…私は、」
「いつか会えたら再会を喜びましょうって、言ったでしょう?」

昨日のことのように思い出す。ミズキが夏油に残したメッセージのことを。五条がムッと口元を曲げた。

「そうソレ!僕納得してない!何でお前がミズキから留守電貰ってんの、僕貰ってないのに!」
「だからもう、悟さんいつも絶対電話に出てくれるから留守電なんて機会がないんですってば」
「やだほしい!傑お前携帯出せよ折るから」
「横暴を絵に描いたようだねぇ」

夏油がからからと笑った。
その時、ミズキの背後から小さな男の子が顔を出した。ミズキの脚に後ろから張り付いていたような格好で、覗いた顔は5歳かそこらという印象、目鼻立ちの綺麗な子どもである。

「あっ悟さん、この子のこと知りませんか?親御さんが近くにいないの。顔立ちが悟さんに似てるから、親戚の子かもって思ったんですけど」

その子どもの顔を見ている内に五条はどんどん青褪めて、だらだらと冷や汗を流し始めた。彼は突然椅子を立つとミズキの足元に土下座をした。

「ほんっっっとーにごめんなさい!!」
「え、え?!何ですか?あっ隠し子?」
「それ違う絶対ない僕ミズキ一筋だから!!」

かくかくしかじか、五条の自白を聞いたその場の面々は彼に軽蔑の眼差しを注いだ。

「最低の極みですね」
「悟…そこまでクズとは…」
「七海も夏油さんも、本当のこと言ったら五条さんだって傷付くよ!」

今度ばかりは反論出来ずに、五条は恐る恐るミズキの顔を見た。彼女は子どもの顔を静かに見つめていて、床に膝をつくとぎゅっと抱き締めた。

「ぼく、私の子なの…?」
「うん」
「産んであげられなくて、ごめんねぇ…っ」

子どもの顔は驚くほど五条に似ている。ただ目元だけは、ミズキの目をしていた。
利発そうな顔立ちを優しく緩ませて、その子は小さな手でミズキを抱き返した。

「お母さん、ちがうよ。僕はこれでよかったと思う。そこのソレがお母さんに謝るのは正しいけど、お母さんは謝ることない」

そこのソレは床に正座している。夏油らが笑いを堪えた。

「僕、もう行かなくちゃ。僕は南の飛行機には乗れないんだって」
「…そっか」
「次もお母さんのところに生まれていい?」
「ありがとう…迎えにいくね」
「うん!」

輝くような笑顔で、手を振ってその子どもは駆けていった。後ろ姿が見えなくなって足音が聞こえなくなって、それでもまだその方向を見ているミズキの背中に、五条がそろりと名前を呼んだ。

「悟さん」
「ハイッ」
「次に生まれ変わっても私を選んでくれますか」
「、え」
「私の子どもは、あの子じゃないと嫌です」

声と後ろ姿が震えている。五条は立ち上がって彼女のことを抱き締めた。

「ごめんね…本当にごめん」

ミズキが五条の腕の中で振り返って彼の首に抱き付いた。彼女が首を振ると柔い髪がさらさらと五条の首元を撫でる。

「私はずっと幸せです。一緒に行くって約束をくれて…悟さんからもらった中で、今までで一番嬉しかった。隣には立てないし役にも立てなくて、引っ張ってもらわなきゃ着いてもいけなくて、だから、一緒に行けるのが、本当に嬉しいの」
「七海はおぞましい執着だって言うよ」
「私が悟さんに、ですかね」
「最高」

五条がミズキを抱く腕に力を込めると、ミズキは嬉しそうに彼の首元に頬を寄せた。
南へ行く。
手を繋いで、一緒に。
温かい風、木陰の居眠り、鮮やかな花や鳥、最高じゃないか。


***

BGM:ヨルシカ「ノーチラス」




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