拍手再録/2人のデート風景(高専)

さまざまな香りの入り混じる店内で五条は、ミズキが【TESTER】とラベリングされた丸い容器を開けては香りを確かめてまた戻す姿を、背後を守るように立ってずっと見ていた。

「悟さんはどれが好きです?やっぱり甘いの?」

言いながら彼女がハニー&ミルクのボディークリームを肩越しに差し出すので、五条は鼻先を寄せてスンと香りを吸い込んだ。確かに甘い。

「甘いのはいいけど、ソレ食えねぇし」

それに匂いならこっちのが余程…と、五条は身を屈めたついでに彼女の髪に頬を寄せた。シャンプーかボディーソープか出所は定かでないけれど、彼女からはいつも優しく甘い匂いがして、五条はそれが好きだった。だからあまり強い匂いを被せてほしくはないのである。
彼女の方には、五条が触れるのなら肌をきちんと手入れしておきたいし、せっかくなら彼の好みの香りを選びたいという女心がある。
お互いに本心は伏せたまま、彼女はテスターをあれこれ確かめる作業に戻った。

陳列棚はガラスの壁を背にして、店の外からも見えるようになっている。真剣に商品に向かうミズキを店の外から男数人が肘で小突き合ってニヤニヤと眺め始めたので、五条はサングラスをずらして視線で刺しておいた。
彼女の死角で男達に向かって中指を立てることも忘れない。

「ね、この2つだったらどっちがいいですか?」
「ん?んー」

五条はギリギリで中指を引っ込めてニコ、といい子の笑顔。
ミズキの両手にはバニラシュガーとアプリコットピーチ。

五条は肩幅に足を開いて上体を屈め、彼女の首元に顔を寄せた。「これがいい」と言うと彼女が視線を動かして『これ』を探し始めたので、「今のお前の匂いがいい」と補足する。

「何か塗りてぇんならあってもいいけど、舐めてもいいやつにして」

五条を見上げていた彼女はふいっと前を向いてしまい、落ち着かない仕草で候補だったテスター2つを棚に戻した。
五条が機嫌良くふっと笑う。

「照れてんの?」
「…違います」
「へぇ?」

五条は意地悪くミズキの顔を覗き込んだ。彼女のなめらかな頬には少し赤みが差している。

「…キスしたくなっちゃっただけ」

小さく愛らしい唇が五条の耳元に近付いてそっと打ち明けた。

五条は最初、愛する彼女が欲しいものを見定めるまで、『待て』をするつもりでいた。会計は自分がしてやろうとも思っていた。
それがもうこの瞬間には頭から綺麗さっぱり飛んで、これ以上1秒も待てないとばかりにミズキの手首を掴むと足早に店を出た。
さっきガラス越しに睨んだ男達を通りがけにもう一度睨んで、彼女の手を引いて人目のない細い路地に連れ込む。

それから、予定していた映画の上映時間を過ぎたことに気付いた彼女に怒られるまで、その路地から出ようとしなかった。




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