花の庭に悪意 C
「あり得ねー何で俺がオマエの報告書書かなきゃなんねーの?」
「当然でしょう、乱入して勝手に祓ったのは貴方です」
「俺のミズキ盗撮したクソ変態って死んで当然じゃね?」
「それでもいいから報告書に書け」
「カッカすんなよ七海お姉様」
「ブン殴りますよ」
呪術高専の2年生の教室に、五条はカンヅメをくらっていた。七海の苛々とした指がまだ白紙の状態の報告書用紙をカツカツと打った。
ちなみに七海とミズキは既に報告書を提出していて、ただ肝心なところで乱入した五条からも報告書が必要と通達があったのだから致し方ない。
「つーかミズキまだ戻んねーの?居合わせた非術師のアフターケアとか補助監督の仕事じゃん」
「初対面の補助監督よりも懐いた相手の方が適任でしょう。いいから書け」
第一、補助監督は五条が大々的に破壊した校舎の後始末に奔走しているのだ。ミズキも自らアフターケアの役割を買って出たのだから、文句を垂れているのは五条だけである。
その時教室の戸が開いて、七海にとっては天の助け、ミズキが顔を出した。
「ただいま」
「助かります、五条さんを殴ってでも報告書を書かせてください」
これ幸いと七海は逃げていった。ミズキが廊下で彼に手を振っていると、室内から五条の手が伸びてきてミズキを室内に引き込み、ぴしゃんと戸を閉めた。
「…俺には何かねぇの」
「悟さんもおかえりなさい。昨日はありがとう…でもやりすぎです!校舎に大穴空けちゃってもう…」
「仕方ねぇだろムカついてたんだし。帳降ろしただけ褒めて」
「怒ってたんですか?出張先で何かありました?」
「クソ変態盗撮野郎が俺の婚約者を見た」
まだ口の中に苦味が残っているかのように五条が顔を顰めると、ミズキはむず痒い気分になって彼の胸に頬を寄せた。
「悟さんありがと」と小さな声が言うと五条は怒っていられなくなって、華奢な身体をそっと抱き締めた。
それからミズキに促されて五条はやっと報告書に文字を綴り始めたものの、頭の中ではとっとと片付ければ部屋でイチャつけるだとか、不謹慎なことに思考を割いていた。
「モモちゃんがね、学院を辞めるんですって」
「へー」
「『憧れだけで入学しましたけれど、ウンザリです。ここは皆イジメと嫌がらせのことしか考えていないんだからクソです』って、ちょっと笑っちゃいました」
「七海お姉様の影響じゃん、ウケる」
「七海くん、制服似合ってましたよ」
「だからってさ、恋人から『七海くんに断られたので写真が送れません』ってメールきた俺の気持ち分かる?俺後輩の女装写真欲しがってると思われたわけ?いやある意味欲しいけど」
「だから気付いて謝ったじゃないですかぁ」
ミズキがからからと笑った。
五条は器用にも会話しながら報告書をさらさらと埋めていく。
「で、あの制服貰えんだよな?」
「?はい、特に返却のことは言われてませんけど」
「おっけ、じゃ今晩俺の部屋に持ってきて。ヤベェ楽しみ」
この場に七海がいれば『貴方こそ祓われてしまえ』と穢れを見る目を五条に向けたに違いない。
その時教室の戸が開いて、覗き込んだのは七海でなく夜蛾だった。五条に緊急の任務とのことだった。
「夜蛾センセーそれ近場?俺今晩絶対外せない大事な予定あんだけど」
「祓除に手間取らなければ移動は短い」
「OK、秒で終わらす」
五条はニィッと好戦的に笑いながら席を立ち、書き終えた報告書をミズキに手渡した。
任務の詳細は正門で待機している補助監督から聞くようにと言い残して夜蛾は先に去って、続いて教室を出ようとする五条をミズキが引き止めた。
「どし、た」
ミズキに袖を引かれて五条がかくんと膝を折ると、背伸びをした彼女が五条の白い頬へキスをした。
「悟さん、来てくれて嬉しかった。いってらっしゃい」
それだけ言ってパタパタと走り去ってしまって、残された五条はしゃがみ込んで深く深く息を吐きながら後ろ頭を乱暴に掻いた。
今晩覚えてろよ、という言葉は、幸い聞く者がいなかった。