10/23 | ナノ


All is fair in love and war.


予想はしていたが、やはりその日の晩餐は大騒ぎだった。飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。早くも出来上がりつつある酔っぱらいを避け、いくつか気になる料理を皿に取って、ネアは本日の―言ってしまえばいつもだが―主役、ドフラミンゴのもとに歩み寄った。

「お父様、隣よろしいですか?」

「ん?ああ。」

順番に酌をされている父親にそう声をかけ、ネアはソファを陣取る。父親の元には行列ができていて、一人ひとり酌をしつつ祝いを述べていた。これだけの人数から酒を受け取って大丈夫だろうか、と父親の肝臓が心配になる。

ソーセージを咀嚼しながらネアは食堂を眺めた。多分もう少ししたらベビー5が作ったショートケーキ―厳密に言うとほとんどネアが作ったが―が供されるはずだ。あれから少し考えてはみたものの、結局ドフラミンゴが甘いものを好きか嫌いかは分からなかった。しかし、自分が(ほとんど)作ったからというのもあるけれど、作ろうと思い立ったのはベビー5なので、彼女の思いもぜひ汲み取って欲しい。当の本人はすでに酒が入っているようで、言動が少し怪しくなっているのだが。





ベビー5とドルシネア、おまけにシュガーの3人が作ったというショートケーキを渡されて、ドフラミンゴはへえと声を漏らした。プレゼントを確認していた時にやってきた娘から菓子の匂いがしたのはそのせいか。
フォークをぷすりと刺し、一口頂く。うまいな、と感想を言って、二口めも頂いたところで、隣の娘がおずおずと口を開いた。

「あの…お父様って甘いものはお嫌いですか?」

「好き好んで食いはしねえな。」

そう答えてから、お前も食うか、と一口大に切り分けたケーキをフォークに突き刺して差し出せば、ネアはぱくりと食いついた。そのままもごもごと咀嚼して、口の中に広がった甘みに顔を緩ませていた。

「あっ、ネアだけずるいわ。私も食べる!」

「散々つまみ食いしたじゃないですか」

その様子を見て自分も、とねだるシュガーに、ネアは溜息を吐きつつもケーキを切り分けてシュガーに手渡す。一見すると微笑ましい姉妹のようだ。―シュガーのほうが年上だが。

「お父様ももう一切れお召し上がりになりますか?」

ケーキナイフを持ったままのネアにそう尋ねられるが、遠慮しておく。嫌いな訳ではないが、多く食べると胸焼けがするのだ。年だろうか、と今日という日だからこそふと思った。

「じゃあ私が代わりに食べるわ。」

「ああ、食っとけ。」

「お父様!あまりシュガーを甘やかさないでください。」

お前はシュガーの母親か、とドフラミンゴは笑った。ドフラミンゴが欲した家族の形がそこにはあった。


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