10/23 | ナノ


Happy Birthday to you !


かなり酒の入って上機嫌なドフラミンゴとともにネアは廊下を歩いていた。もしかしたら上機嫌である理由はファミリーに誕生日を祝われたことにあるのかもしれないが、あれだけ酒を浴びるように飲んではもはや判別がつかない。

「いい日だなァ、今日は。」

ぽつりとドフラミンゴが零した言葉に、ネアはどう答えるか悩み、しばらくしてからええ、とだけ返した。父親の万感がこもった言葉に返せるような言葉をネアは持っていなかったからだ。

父親を寝室に入れ、ソファに座らせてから水の入ったコップを渡す。それを父親が飲んでいる間に、朝のうちに持ってきておいたプレゼントを勝手知ったるクローゼットから取り出した。包装が施された小さな箱。一度父親から隠すように持ってから、もう隠す意味もないか、と持ち直す。箱を持って父親のそばに歩み寄れば、父親は一度視線をプレゼントに落とし、次いで娘を楽しそうに見つめた。

「お父様、お誕生日おめでとうございます。娘からのほんの気持ちです。」

そういって差し出せば、父親は小さな箱をしげしげと眺めてから開けていいか、と問う。特に問題もないので頷けば、父親はシンプルな包装紙を破らないように丁寧に糊を剥がし、桐箱を取り出した。蓋を開ければベルベット張りの中に収まっていたのは、一本の万年筆。箱から取り出して、ほう、と眺める。

「万年筆か。」

くるくると回してみる。娘の趣味らしく、落ち着いた―ドフラミンゴに言わせれば少し地味な色合いだ。強いていうならばところどころアクセントに金色が用いられているのはドフラミンゴを意識してのことか。その証明のように、ペン軸には金色で『D.D.』と彫られていた。ドフラミンゴのイニシャルだ。

「ええ。お父様は書き仕事が多いので。」

「そういやそうだな…」

手近な紙を引き寄せ、試しに名前を書いてみる。良い物なのだろう、いつも使っているものよりも滑りが良かった。

「いいな。ありがとう、ドルシネア。」

父親が試し書きするのを覗き込んでいた娘の頭を引き寄せて、額に口付ける。簡潔な褒め言葉に、ネアは目を細めて、嬉しそうに微笑んだ。

「喜んでもらえてよかったです。」

それから、もう遅いですから寝ましょう、という娘の言葉に従い、ドフラミンゴは手に持っていた万年筆を再び箱にしまった。そして促されるままにベッドに潜り込む。

「おやすみなさい、お父様。」

「お前も早く寝ろよ。」

「ええ。―お父様、良い一年を。」

そう返して、照明を落としたネアは父親の寝室を出る。年に一度の日が、静かな夜の中に終わりを告げた。


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