10/23 | ナノ


You can drink, but don't get swallowed up.


部屋がまるまるひとつ埋まるほどに寄越されたプレゼントにも慣れたものだ。
使用人たちがその一つ一つをリストアップし、分類して片付けていくのをしばしぼんやりと眺めていた。小さい子どもならともかく、四十路のいい年した男にはプレゼントを喜ぶような童心はない。贈る方もそれを承知しているもので、誕生日プレゼント、とは言うものの実際賄賂とかそういった類のつもりで送っているのだろう。ドフラミンゴの好みを掴んでいるのか否かは知らないが、プレゼントの半分ほどは酒だった。良いのがあったら今晩開けるか、と考えて、使用人たちが書いたリストを眺める。中には場違いな菓子類も入っているが、これは十中八九娘用だ。ドフラミンゴだけでなくドルシネアにもプレゼントを贈って少しでも株をあげようという算段なのだろう。効果があるのかは知らないが。

「わ、相変わらずすごいですね。」

いつ来たのか、隣に立っていたネアが部屋から運び出されるプレゼントを見て感嘆する。いつもよりほんの少しだけ娘が近いような気がして、ドフラミンゴはおや、と瞠目した。娘の全身をつぶさに観察すると、足元がいつもとは異なることに気づく。今日はあの武骨なアーミーブーツではなく、いつぞやにドフラミンゴが買い与えたパンプスを履いていた。赤色で飾り気は少ないが、上品なものだ。年頃の娘が履くにはすこし大人びているかと思ったが、予想していたよりもずっと着こなしている。

「何か良いものはありましたか?」

娘の質問に、手元の紙束に目を通す。送られてきた物のうち3分の2ほどが酒類で、いずれも名高い高級品ばかりだ。だが、どれもこれもドフラミンゴは飲んだことがあった。特段珍しい物はない。

「いつもと同じだ。…ああ、そういやお前宛だろう菓子折りがいくつかあるぞ。」

その言葉を耳にして、娘は目を輝かせた。甘党であることを抜きにしても、この娘はその純粋さ故に心から喜ぶことができるのだろう。自分が遠い昔に失ったものを娘に見て、少し寂しさを感じた。

「でも、お父様の誕生日なのに…」

「貰えるもんは貰っとけ。どうせ勝手に送ってきてるんだ。」

そう言って、娘の頭を軽く撫でる。どこからか、甘い菓子の匂いがした。


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