Good morning to all.
10月23日。 事情を知らない人にとってはただの365分の1日でしかないが、その日付はドンキホーテファミリー、ひいてはドレスローザにおいて重要な意味を持つ。
ドンキホーテ・ドフラミンゴの誕生日である。
ファミリーの長にしてドレスローザの国王、そんな彼の誕生日は朝から涼しく、快晴であった。
朝5時きっかりに目覚し時計を止め、目薬を両目に点して目を瞑る。薬液が眼球に広がった頃合いを見計らって目を開き、手を数度握ってからネアはベッドを降りた。 先に軽く顔を洗って、口をすすいでから身支度を整える。親譲りの金髪を梳き、用意されていた衣装に腕を通す。年間を通じて温暖なドレスローザといえ、晩秋に当たるこの頃は少し肌寒いためか、生地が厚めになっていた。 しっかり顔を洗ってから姿見で全身を確認し、よし、とネアは小さく呟いた。
今日は彼女の父親の誕生日である。やりたいことも、してあげたいこともたくさんあるのだ。
いつものアーミーブーツではなく、以前父親が買ってくれたちょっとかかとが高めのパンプスを履く。時刻は5時半。少し早いが行動開始だ。 自室の扉を開けて廊下に出る。朝のひんやりとした空気が肌を撫でた。まだ早いためか、人通りはない。目指すは父親の寝室。しばらく歩き、いくつか階段を登り降りしてから、ようやくその扉の前に辿り着いた。
見聞色を展開し、父親がまだ寝ているのを確認する。そっと扉を押して、生まれた少しの隙間から体を滑り込ませる。 そのまま足音を殺して寝台に歩み寄る。時刻は5時45分。いつも父親が起きるのは6時きっかりだから、少し早い。
6時になったら起こそう、と決め、ネアは父親の寝姿を眺める。昔からそうだが、ドフラミンゴは寝顔を隠すようにして眠る。今日も顔を左手で覆うようにして寝ていた。その行動にどんな意味があるのか、ネアは朧気に推察していた。―多分、過去の経験のせいだ。父親の心の奥底に刻まれた痛ましい記憶は、ネアの想像を絶する。それでも生きてきたのだから、父親は本当に強い人なのだ。
「…そろそろ顔に穴が空きそうだ」
「 !起きていらっしゃったのですか?」
寝ている、と思っていた父親が口を開いたことにネアは驚く。そんな娘の反応を、寝台の上で身を起こしたドフラミンゴは目を細めて見つめた。
「お前が部屋に入ってきた時ぐらいから起きていた」
そんなに前から、とネアは狼狽する。それは即ち、父親を少し早く起こしてしまったということ。
「起こすつもりはなかったんです…」
しおしおと目線を下げながらネアは言う。一方のドフラミンゴは、さほど気にした様子もなく娘の頭を数度撫でた。
「気にするな。それより、ほかに言うことがあるんじゃねえか?」
「はい、あの…お父様、お誕生日おめでとうございます。」
「ああ。」
「私、いちばんに言って差し上げたくて」
「…ありがとう、ドルシネア。」
父親からの返答に、ネアは顔を明るくした。 10月23日の太陽が、水平線から顔を出していた。
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