▼本日運命予定日

出血により気を失ったマークスを前に、ドフラミンゴは思案する。さて、こいつは情報を吐くだろうか。ドフラミンゴの最優先事項は娘を取り戻すことだが、武器密輸の証拠を海軍に抑えられることも避けたい。二兎を追う者一兎も得ず、という不吉な諺が脳裏をよぎった。そんなことはないとドフラミンゴは首を振る。すでに娘を取り戻す算段は付いているのだ。後はマークスと繋がっていたどこかの誰かを炙り出し、証拠を奪い返せばいい。ちょうどいい餌もいるではないか。自制が効いてよかった。いつものドフラミンゴならば今頃マークスは八つ裂きの上海王類の胃の中だ。

今ドフラミンゴが出来ることは、島中に散った部下たちからの報告を待つことだけだ。陸路も海路も抑えてある。マークスと繋がっている者たちがすでにこの島に来ているのか否かわからないが、どちらにせよドフラミンゴの手の上だ。

一度サングラスを外し、目頭を揉む。ずっと気を張っている―いや、気が立っているせいか、少し頭痛がしてきた。そんな不調をさらに掻き立てるように、一つの電伝虫が騒ぎ出す。

「…あァ、俺だ。」

『若様!!若様、あの、あのね、』

響いたのはデリンジャーの声。激しく取り乱した様子に、不安が掻き立てられる。

「おい、何があった。」

詳しく説明しろと催促する。握りしめた受話器が嫌な音を立てた。

『じゅ、じゅうにおく…』

「は、」

『12億の値がついたの!ネアに!革命軍が!!』

12億、という衝撃の数字以上に、"革命軍"という単語がドフラミンゴの脳内で木霊する。"革命軍"、そんな、ああ、そうか!

「競り落としたやつを尾行しろ!」

啜り泣くデリンジャーに命じる。震えた声で了承を返したのを確認し、ドフラミンゴは通話を切った。そうか、"革命軍"だったのだ、マークスに情報を与えたのは。ネアを取り戻すことができなかったのは腸が煮えくりかえる思いだが、そのおかげで相手が突き止められたというのは大きい。とはいえ向こうも馬鹿ではない、競り落とすことで自分たちの正体が露見するのは想定内だろう。だからこそマークスとネアを離し、どちらも追わなければならない状況を作り出したのだ。大方その間に天候が回復するのを待っていたのだろう。未だ海は時化ているが、船を出せないほどではない。革命軍は強行するだろう。となればここからは時間との勝負だ。ドンキホーテファミリーが革命軍に追い付くのが先か、革命軍が出港するのが先か。

急ぎ島内の部下に連絡を取り、ドフラミンゴは部屋を飛び出した。

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