▼柩の中身は造花の屍

ベビー5とデリンジャーは難なく"人形展"会場に入ることができた。もしドレスコードや、あるいは身分の照会などがあれば入れない―ということはないにしても、数々の不都合があっただろう。ここが田舎町でよかった。

ステージから最も離れた席を取り、オークションが始まるまでの間二手に分かれて情報収集に当たる。内容はマークスのことであったり、"人形展"のことであったりした。マークスについてはほとんど情報を得られなかったが、人形展については常連客から相場について聞き出すことができた。やはり小規模なオークションであるからか、シャボンディ諸島の人間屋ほど高値はつかないらしい。これまでについた最高金額は2億で、天使の歌声と讃えられた声を持つ少年のものらしい。
2億なら、と情報を共有していたデリンジャーとベビー5は目を合わせる。彼らの姉妹のような存在であるドルシネアが、その容姿で過去最高値を叩き出したとしてもなんとかなるだろう。こちらには10億もあるのだ。

会場の照明が落とされ、会場が一瞬静まり返るがすぐに賑やかさを取り戻す。ステージの証明が灯り、バタフライマスクを着けた女性が現れた。

「紳士淑女の皆様、我が"人形展"へようこそ。本日も名工の作品を数多用意させていただきました。」

何が名工だ、とデリンジャーは悪態をつく。どれだけ容姿が美しかろうと、人間である限り肉の器から生まれ育った存在に過ぎない。そう、試験管の中で培養でもされない限り。

「どうぞごゆっくり、ご鑑賞ください。」

そう告げて、女性は袖に引っ込む。そして新たに1人、司会と思わしき人物がステージに上がった。合わせて1人の少年が引きずり出される。薬でも打たれたのか、そのしなやかな四肢をぐったりとさせていた。
ぎり、と歯を噛みしめる音が聞こえる。見れば、ベビー5が怒りの形相でステージを見つめていた。あの少年の様子を見て、ベビー5はその想定に至ったのだろう。彼女たちの大切な姉妹も、同じような目に合わされている、と。




「インヴェルノ島の海軍が動く様子はねエ。が、どうやらこの島の北っ側の海が荒れてるみたいだ。動きたくても動けねえのかもな。」

ディアマンテの報告に、ドフラミンゴはそうか、と返す。海軍はこの島には来ていない。それだけ分かれば十分だった。例えマークスが海軍とつながっていたとしても、ドフラミンゴの悪事の確固たる証拠がなければ、王下七武海であるドフラミンゴを捕まえることなどできない。海軍がいないのであればマークスなどただの一人の男に過ぎない。そして今や重要な人質すら手放し、島を出る手段もない。完全に袋の鼠だ。

「八つ裂きにしてやらねェとな?ああ、その前に情報を聞き出すのが先か?」

指を絡ませて弄び、ドフラミンゴは笑った。どうも娘を取り戻す算段がついてから、ドフラミンゴの機嫌は安定していた。やはりどうにも娘がいないと落ち着かない。

「半月も俺とネアを離れ離れにしやがって」

挙句の果てに娘を売るとは。金になると思って売ったのだろうが、失礼にも程がある。金になどなるか。あの娘に金額をつけられるのなら教えて欲しい。最も、どんな値段をつけられようとドフラミンゴは足りないと言って相手を殴りつけるだろうけれど。

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