▼美しく時は曖昧にとろけ合う

おおよそ考えうる限りに十二分の仕事を果たした娘を、ドフラミンゴは優しく迎えた。

「やっと帰ってきたな、ネア。」

屈んで抱きしめると、少し冷えた体温が伝わった。

「もう疲れました…」

「ああ。」

父親の胸に体を預け、ネアはその双眸を閉じる。力の抜けた体をドフラミンゴは抱え上げた。

娘がただ眠っているのではなく、意識障害に陥っていることに気づくのは少し先のことである。




幾分波の収まった海を行く船の上で、サボは水平線を見つめていた。作戦は見事に失敗、今こうして命があるだけでも万々歳だ。

―あの時、取引を持ちかけた相手がドフラミンゴだったなら、受け入れられることなどなく皆殺しにされていただろう。あの時ドルシネアが条件を飲んだのは、他言されるであろうことを見越して、だが確固たる証拠がなければそれほど大きな問題にはならないと判断したからだ。可能性の芽は出来る限り潰そうとする父親とは、その点で異なる。その違いが性格から来るのか、それとも己の強さに対する自信から来るのかはわからないが。

それにしても、とサボは空を見上げる。元々あのマークスという男が主導した作戦だ。なにか手に入れられたらいい程度に思っていたが、ここまで収穫が少ないのは流石に問題かもしれない。命を賭けた取引をしておきながら、他言しないという約束を守るつもりは残念ながらない。しかし確かに、情報を口づてで伝える程度ではなんの信憑性もないし(今回のように軽々と信じ込んだマークスが異常なのだ)、多少噂が広まったところでドフラミンゴのコネがあればたやすく揉み消すことができるだろう。紙媒体という証拠を失った時点で、もはや革命軍に勝ち目はなかった。今回ばかりはドフラミンゴの狡猾さとドルシネアの強さに押し切られた。だが、次こそは。

サボは新たな作戦を練り始めた。今度こそ、天夜叉の悪行を白日のもとに晒すために。

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