▼死に様くらい選ばせてやろう

ドルシネアが姿勢を低くした途端、その姿が掻き消える。
耳に届いた風を切る音だけを頼りに、サボは鉄パイプを構えた。間を置かず、アーミーブーツに包まれた足が鉄パイプを震わせる。
―どんな蹴りだ。サボは思わず背筋を震わせた。前言撤回。普通の美少女などではない。その紅い目には爛々と闘志が宿り、いっそ野性味すら感じる。
両手で構えた鉄パイプを押し出すようにして無理やり彼我の距離を離す。身軽く空中を飛んだ少女だが、着地の際少し姿勢を崩した。まだ薬の影響は残っているらしい。

とはいえ、その強さは健在である。万全の体調でない上に素手であってもこれほど強いのだから、本調子ならばどれほどの強さを誇るのだろうか。なるほど、彼女こそがドフラミンゴの娘だ。

「―貴方が革命軍の参謀ですね?」

少女の問に、サボは肯定を返す。その仕草を目で確認した少女は、再び空けられた距離を詰める。軸足に体重が乗っている。反対の足が、まっすぐに上がってくるのが見えた。狙いは顎か。とっさに首の前で鉄パイプを構える。

―が、衝撃は横からやってきた。

「ぉわっ!?」

勢いのまま甲板に倒され、サボは思わず目を回した。何だ今の動き。真っ直ぐにあげていた足を一体いつ横向きに転換させたのか。そしてこの状況。関節を抑え込まれ、身動きが取れない。

「さあ、あなた方が私達から奪ったもの、返していただきましょうか。」

こちらを見つめる真っ赤な瞳に多少怖気づく。だが、それは表に出さず、少し呼吸を整えてから口を開いた。

「その前に、取引をしねえか?」

さて、参謀の腕の見せ所か。

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