▼待ちくたびれたお姫様
サボが甲板から岸壁に視線を落とすと、そこにはすでにドンキホーテファミリーの姿があった。革命軍の構成員とファミリーがぶつかり合っている。なんとか船に乗り込まれるのは阻止できているようだが、それも時間の問題だろう。予想以上のドフラミンゴの手回しの速さに、サボは内心舌を巻いた。これが悪のカリスマ。新世界を引っ掻き回す実力は伊達ではないか。
「よォ、クソガキ。俺から奪ったものを返してもらおうか?」
奥に控えていたドフラミンゴがこちらの姿を認めたのか、唇を歪な笑みの形に変えて言う。
「悪いが、こっちも仕事なんでね」
さて、どうすべきかとサボは思案する。このままドンキホーテファミリーに勝てるとは思えない。サボの冷酷な軍師としての一面が、少数を切り捨てて出航しろと囁く。犯罪の証拠も人質もこちらが抑えているのだ、逃げ切れば勝ちだ。すでに出航準備は整っている。あとはサボが命令を下すだけだ。
しかし、とサボは悩む。圧倒的な実力差があるドンキホーテファミリーを相手取り、今も懸命に戦っている彼らを見捨てていいものだろうか。彼らとて大切な革命軍の一員。ここまでこれたのは彼らがいたからだ。そんな大切な仲間を見捨てるのか?
悩む。いや、そもそも元をたどればあのマークスという男がもう少し賢ければ―サボは頭を振った。そんな人に責任をなすりつけるようなことをしてはいけない。真っ直ぐに相手を見据える。何か、何かないのか―。
突如。
悩む彼の足元に、鈍い音を立てて刃物が食い込んだ。
「な!?」
甲板に突き刺さるハルバード。思わずドフラミンゴにも背を向け、サボは振り向いて敵を探す。
船内への入り口。そこに、物を投擲した後の姿勢を保ったまま、少女が立っていた。
―ドンキホーテ・ドルシネア。
その姿にその場の全員の視線が集中する。
少女が一歩、覚束ない足を踏み出す。それを見て、サボは愛用している鉄パイプを構えた。
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