▼王子に成り損ねたJ

革袋に詰められた"お人形"を船まで運び入れ、青年はようやく、といったふうに大きく息を吐いた。まだ若い少女であるとはいえ、この距離を運ぶのは流石に骨が折れる。
用意した船の中の一室に入り、少女を袋から出す。少女はまだ薬品が抜けていないのか、床に肌が触れた感触に少し唸ってからその赤い双眸を閉じた。

しかし、と青年は少女の姿をまじまじと見つめる。これが、ドンキホーテ・ドルシネア。あの、悪名高い男の娘?
共通点といえばその金髪ぐらいしかない。あるいはドフラミンゴの虹彩も赤いのかもしれないが、見たことがないので保留。性別が違う、歳が離れているとはいえ、一見する限りかの父親の面影は見いだせない。どこにでも―いや、流石に美少女というのは早々いるものではないが、至って普通の少女にしか見えない。
しかし彼女は紛うことなきドフラミンゴの実の娘、そして彼のアキレス腱であり、さらにドラゴンの言によると政府にとっても重大な秘密を抱えた存在であるらしい。
そうとは思えないが、人は見かけによらないというものなのか。

未だ意識の判然としない少女の腕を背に回し、手首を縄で結う。本当ならばもう少し拘束すべきなのだろうが、うら若い少女の肌をこれ以上痛めることは憚られた。我ながら甘いと思う。しかしどうしても、同年代の少女に酷いことをしているという罪悪感がこみ上げてくるのだから仕方がない。

「よし。見張り頼んだぞ。」

やや顔色の悪い男にそう声をかける。船の外が少し騒がしい。様子を見に行くか、と青年は船室を出た。
青年の名を、サボという。

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