ベル様娘と乙樽
好きなキャラの娘になりたいのは性癖だから仕方ないね。
ところで旅団長はオッツダルヴァが本名なのかテルミドールが本名なのか…
薄っぺらい紙一枚。それに書かれた内容に目を通し、少女は凍りついた。
瞬き一つせず、ただそこに記された黒い文字を少女は凝視する。その様を、オッツダルヴァはじっと眺めていた。
―ベルリオーズ、戦死。
国家解体戦争の英雄の死。それは、ただ一枚の紙のみで知らされた。ネクストに搭乗している以上、遺体の回収は困難なのだろうか。それとも、もはやレイレナードに戦没者を弔う余力もないのか。
少女は手に持った紙を握りしめ、膝を抱え込んで俯いた。黒い髪がその表情を隠す。
―泣いているのかもしれなかった。時折、その肩が震えていた。
「―…。」
なにか声をかけようとして、何も思いつかず沈黙する。ただの幹部候補生である今のオッツダルヴァに、父親を亡くした少女にかける言葉などない。彼にできることは、少女が落ち着くまで黙っていることだった。
時計の針が震える音だけが部屋を満たす。音もなく、少女は父親の死に泣き続けた。
→そして乙樽のオペレーターになる編
『ミッション開始。アームズフォート、ギガベースを撃破します。対象からの遠距離砲撃に注意してください。』
「フン、私を誰だと思っている?」
『自信があるのはいいことですが自惚れませんよう。ご武運をお祈りいたします。』
オペレーターからの鋭い切り返しにオッツダルヴァは唇を歪ませる。彼女の忠告は自信過剰なオッツダルヴァに対しては正確だが、自覚がある欠点を突かれると否が応にも腹が立つ。
ギガベースからの砲撃をQBで躱しつつ接近する。自身の武装の射程圏内に対象を収めると、オッツダルヴァは攻撃を開始した。
「お疲れ様でした、オッツダルヴァ。」
「あの程度、疲れるほどでもない。」
「でしたらもう一度出撃なさいますか?」
「貴様…そういうことではない。」
カラードに戻るなり出迎えたオペレーター相手にそんな軽口を叩く。とはいえ、周囲から見れば空気の読めないオペレーターとランク1の喧嘩…になるのだろうか。このような関係になる以前から付き合いがあったため、どうしても調子を狂わされる。
「オーメルの役員からお茶会の知らせが届いていました。明後日正午です。出席なさいますか?」
「またあの下らん集いか…まあいい、出てやるか。」
ではそのように、と事務的に片付けるオペレーターをオッツダルヴァは眺める。あの日、父親の死に泣いていた少女の面影はない。ただあの頃より短くなった黒髪と、時折見せる父親とよく似た表情が、彼女がベルリオーズの娘であることを思い出させる。
「ラインアークの件はどうなった?」
「現在は戦力の調整段階です。おそらく貴方は出ることになると思いますが。」
「そうか。」
では今頃同時にラインアークからも依頼が出されているのだろう。ホワイトグリントとは別の戦力を用意するために。
ホワイトグリント。オッツダルヴァは一人、拳を握りしめた。あのラインアークの守護神は、リンクス戦争を駆け抜けたレイヴン、アナトリアの傭兵が搭乗しているとの噂がある。もしそれが事実ならベルリオーズの仇だ。が、オッツダルヴァは倒さない。いや、倒せないのだ。ホワイトグリントという強大な敵を前に、オッツダルヴァは退場するのだから。
それを、彼女はどう思うだろう?父親の仇を討たず、いなくなるオッツダルヴァを。
やはり話すべきだろうか。オッツダルヴァは苦悩する。彼女とて元はレイレナードの人間、クローズプランについて話してもいいのではないのか?
しかしその一方で、もう争いに巻き込みたくないという思いもあった。父親と同等のAMS適性があるのに彼女がオペレーターをやっているのは、オッツダルヴァが彼女がネクストに乗るのを良しとしなかったからだ。あの日、1人で泣いていた少女を戦場に送るなど、オッツダルヴァにはできなかった。そんな彼女にクレイドルを落とす必要がある計画を話すのか?
「…オッツダルヴァ?」
黙り込んだオッツダルヴァに彼女が声をかける。
「どうかしましたか?」
「いや…」
もう戻る、と言って返事も聞かず踵を返す。ベルリオーズの娘。あの日泣いていた、可哀想な少女。
→オッツダルヴァがテルミドールになったらどうなんの?
アルテリア・クラニアムに顕れたその機体に、テルミドールは絶句した。
黒にほんの少し赤茶色を混ぜたような、金属の鈍さを感じさせるカラーリングのアリーヤ。
背中に有澤のグレネードを背負い、その肩のエンブレムは黒と赤で機体名に由来するギロチンを象っている。
オリジナルのNo.1、国家解体戦争の英雄、ベルリオーズの愛機、シュープリス。
だがすでに搭乗者はアナトリアの傭兵に敗北し、亡くなって久しい。では今、あの機体に乗っているのは。
ベルリオーズの娘であるかの女性にほかならない。