咲かぬが仏
一口に人形と言っても、その種類は多岐に渡る。クザンがドフラミンゴの腕に抱えられたその少女を見て思い浮かべたのは、白磁の人形だった。まだ幼さの残る丸い頬や、思春期直前の中性的な肢体がいかにもそれらしい。ドフラミンゴの腕の中で、身じろぎ一つせず眠り込んでいる姿は、一見すると人形でしかなかった。が、不躾にもじろじろと見ているうちに、座りが悪くなったのか、もぞもぞとその腕を動かし始める。そんな少女に視線を落とし、ドフラミンゴはちょいと抱えている腕を動かす。すると落ち着いたらしく、また少女は眠りだした。
珍しい光景にクザンは思わず『あらら…。』と声を零す。まさかあのドフラミンゴがこんな人間臭い一面を持っているとは。
そういえば、おつるさんから聞いたことがある。ドフラミンゴにはなかなか可愛い娘がいるのだと。なるほど、あれがそうか。
「ジロジロ見てんじゃねえよ。」
クザンの視線に気づいたらしいドフラミンゴが、声を抑えながら悪態をつく。
「いいじゃない別に、減るもんでもなし。」
「減る。」
「何がさ…。」
表情こそは普通を装いながら、ドフラミンゴの言葉にクザンは開いた口が塞がらないでいた。なんだこれは。ドフラミンゴが、政府を脅して七武海に加盟した男が、まるで普通の親の―それもちょっと過保護目の―ように。
「その子が噂の娘ちゃん?可愛いねえ。」
「誰から聞いた?」
そしてこの威嚇の仕様である。娘を隠すように抱き直す動作も、至って普通の父親のものでしかない。―おいおい、まじかよ。
「おつるさんだよ。」
「ああ…。」
「名前、なんていうの?」
「教えると思うか?」
「いいじゃない、それくらい。」
だが、ドフラミンゴは口をつぐんで一向に答えなかった。そんなに教えたくないか、とクザンは肩を落とす。
「用がないならそこをどけ。邪魔だ。」
「はいはい。とっとと退散しますよー。」
広い廊下だ、体の大きいクザンとドフラミンゴが並んでも交通に支障はないのだが―おっかない父親にこう言われては仕方ない。クザンは手をひらひらと振り、ドフラミンゴとは反対側に歩き出す。
少し歩いてから、後方から話し声が聞こえて立ち止まる。振り返れば、目を覚ましたらしい少女とドフラミンゴが何事か話していた。
遠目に伺っていると、こちらに気づいたらしい少女がドフラミンゴの肩から顔を出す。丸い、あどけない美貌だ。手を振ると、少女も小さな手を振り返す。―あらら、可愛らしい良い子じゃない。
さて、あの子の名前はなんていうのかな。まあ、手配書を見ればすぐにわかる話だが。