短編 | ナノ

いくさばより

悪コラさん設定

「まだですか?」

「そう急かすなって。」

清掃途中の愛銃を片手に、ロシナンテは背中にかけられた声に返事をする。
さほど銃を使う機会のないメルセデスは、ロシナンテの手付きを見ながら、まあ良いですけど、と零した。

「うっかりジャムったりしたら面倒だからな…っと。」

「銃の不良よりロシーのドジのほうが私は不安です。」

「たしかに。」

弾丸を装填し、リボルバーを戻す。よし、いつものおれの銃だ。

「待たせたな。行くか!」

「残りはあと1つです。さっさと終わらせて帰りましょう。」

―ロシナンテとメルセデスが彼らの王から仰せつかった命は一つ。
身の程知らずの海賊共を根絶やしにしろ。

ここ数ヶ月、ドンキホーテファミリーの縄張りを荒らし回っていた馬鹿共がいたらしい。それに立腹なされた我らが王は、奴らの根城を特定し、わざわざ自分の血縁者を使って徹底的に排除する方針を固めたらしい。

血縁者、とは言えども、めったに戦いの場に赴くことのないドフラミンゴ本人を除けば、事実上の最高戦力である。剣を携え、圧倒的なスピードで切り込んでいくメルセデスと、地味だが少人数での行動にはもってこいの能力、正確無比な射撃の腕を持つロシナンテ。見事に前衛後衛を果たせるわけだ。

既に潰した2つの拠点も、今まさに制圧しかかっている3つ目の拠点も、彼らの猛攻に耐えきれるはずがなく。

「来世は、強者の機嫌を損ねることのありませんよう。」

メルセデスが追い込んだ海賊の眉間に、ロシナンテが鉛玉をお見舞いする。
床に倒れ伏す海賊の死体を確認し、怪しければその都度眉間に鉛玉をぶち込んでいくロシナンテを、メルセデスは黙って見守る。

「おーし、帰るか。」

「いつも思いますけど、ロシーは随分殺しを徹底しますね。」

「ん?そりゃ、生きてたら復讐とかされるからな。」

敵は皆殺し。文字通り、息の根を完全に止めに行くのが、ロシナンテという男だった。

「ドジっ子だから?」

「そうそう、ドジっ子だからうっかり殺しきれてないやつがいたり…まあ、するけどな?」

ドジっ子だからなー、と言いつつ、今日はその身を焦がすことなく煙草を吸う。

「時々、ロシーは本当にドジっ子なのか疑問に思うことがあります。」

「悲しいことだが、間違いなくドジっ子だ。」

「本当に?」

「嘘をついてどうなる?」

ロシナンテとメルセデスの視線が交錯する。赤い目が4つ。でも、とメルセデスは疑問をぶつける。

「銃を扱っているときに、ドジっ子を発動したロシナンテは見たことがないです。」

「いや、それはただ単に気をつけてるだけだな。暴発したら死ぬし。」

「…成程?」

そういうものか、と軽々しく納得はできない。とはいえ、ロシナンテのドジは演技とは思えないレベルの、つまりは真剣である。

ただ、日常でいくらドジっ子であっても、戦闘中にその面影がまるで見いだせない。ロシナンテ以上の銃の使い手がいるだろうか、と感嘆するほどに、彼の銃さばきは鮮やかだ。

「その注意力を日頃から活かしてくれれば…。」

「いやぁ、すまんな。」

ははは、とロシナンテが笑う。ああ、彼らの船が見えてきた。




銃器を扱うときは、こと仔細に気を配っている。だが、それ以上に、戦場という、命をいつ落とすのかわからない場に立てば、不思議なことに、自分が次に起こす行動にどんな危険が潜んでいるか、予測が立てられた。まるでスイッチでも入るかのように。
しかし、ドフラミンゴとメルセデスはそうではない―ロシナンテの見る限りでは。彼らは、戦場にあるときも、王宮で過ごすときも変わらない。常在戦場の精神か、あるいは逆なのか。

「ぅおっ」

考えながら煙草を用意していたら、うっかりコートに火をつけてしまった。そばにいたローが、呆れたような顔をしながらおれに水をぶっかける。

「ありがとな、ロー。」

「はいはい。」

戦ってる時は、こうはならないんだけどなあ。

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