Cosmos, we aimed.
緑というのは草木の色であり、大地の色であり、水の色であるというのに、アレが輝くだけでどうしてあんなに恐ろしいのだろう。
宇宙船の建設は着々と進んでいる。もとよりアームズフォートを作り上げ、人々の居住区を空に確保するほどの技術を持っていた企業達だ。宇宙船ごとき容易い。その癖、くだらない足の引っ張り合いで自ら宇宙への道を閉ざし、大地に致死の毒を撒いていた、愚かな者たち。プロメテウスが与え給うた叡智の炎は、人類には早すぎた。
であればもう少し位階を下げた、優しい知恵から始める他ない。テルミドールが勧めているのは人類の救済策であると同時に、人類の改革でもあった。
「マクスー?お、いた。」
「メルセデスか、どうした。」
「ん?なんかマクス呼んできてーって、GAのあの人……うん、頼まれたから。」
―当然ではあるが、現在、ネクストの起動は許可されていない。クラニアムの戦闘に勝利してからこの方、コジマ粒子が関係するものは、その大小に関わらずすべて運用を停止していた。宇宙への道は近く、遠い。残された日々を過ごす大地は小さすぎるというのに、これ以上汚染して居住区域を狭める訳にはいかないからだ。
そのため、企業連、ORCA旅団、はたまたその他の組織に属していたすべてのリンクスは職に溢れていた。例外は、陣頭指揮がひたすらうまい王小龍か、宇宙船のような大型機にも活かせるノウハウを持った有澤の面々ぐらいだ。
もちろん、メルセデスも職に溢れたものの一人である。なにせこいつはネクストに乗ること以外まるでできない。そんな男が、ネクストの価値を無にする作戦を遂行していたのは何たる皮肉だろうか。
「分かった、すぐ行く。」
「いってらっしゃーい。」
「…お前はどこへ行く?」
「ん?なんかその辺をぶらぶらしてるよ?」
その返答に、テルミドールは眉を寄せた。メルセデスの散歩ほど面倒ごとの種になりそうなものはない。その辺の男を引っ掛けまくって修羅場になるのはごめんである。
「暇ならセレン・ヘイズでも手伝ってやれ。カリカリしていたぞ。」
「えー俺カリカリしてるセレンのとこ行くのヤなんだけど。」
まあ確かに、とテルミドールは頷いた。セレン・ヘイズ―もとい、オリジナルNo16の霞スミカ―は、なかなか苛烈な性格をしている。いや、オリジナルというのは大概一癖も二癖もあるものだから、彼女もその例には漏れず、ということなのだろうが。どれくらい苛烈かというと、ご覧のように、彼女にリンクスとして仕込まれ、育てられたメルセデスですら怒っている彼女には近づきたくないというほどである。ちなみにテルミドールは、メルセデスがこんなにゆるい性格になったのは霞スミカを反面教師にしたからではないかと疑っている。
「…なら、有澤のところでも行ってくるか?」
「あのね、マクス、きみ俺が何かできると思ってる?」
その質問に、テルミドールは黙って首を横に振った。それを見て、メルセデスはほらね!と胸を張る。―胸を張る場面ではないぞ。
「お前、ネクストを降りると驚くほど無能だな。」
「まーね。ネクスト特化だから!」
何も仕事できないし!と堂々と言い放つ姿は圧巻だ。言うことがかなり残念だが。
「あ、でも?でもでも?」
「なんだ?」
「マクスの手伝いなら、してもいいかなーって。」
その言葉を、テルミドールは鼻で笑い飛ばした。
「猫の手にもならん。」
「ええっ、ひどくない?俺ランク1なんですけど?」
「リンクスとして、だろう?」
「そうだけど!ランク1なんですけど!最強なんですけど!」
「全く役に立たんな。まず読み書きから練習してこい。」
「えーーーマクスが教えてくれたらやるーーーー…。」
「そんな暇はない。」
「む?忙しい?ほらほら手伝おうかー?」
小動物のように纏わりついてくるメルセデスの頭を引っ掴む。うぎゃあ、とランク1にしては情けない声が響く。
「そうだな、今はいらん。だがな…。」
「んん!?」
さて、いつになるだろうか。このネクスト一辺倒だった少年が、そこそこの学を身につけるのは。
「―ああ、宇宙に出たら。そしてそのときにお前がある程度読み書きができるようになっていたら、助けを求めることもあるかもな。」
「えええ…それっていつさ…。」
「さあ、いつだろうな。だが、そんなに遠い先ではない。」