焚書の灰は白く、骨のように
夏場は乾燥するドレスローザにしては珍しく、その晩は雨が降っていた。
「まだ起きてたのか。早く寝ろ。」
廊下で出くわした父が、こちらを見下ろしながら、少し心配そうな声音で言う。そっくりそのまま同じ言葉を返したいが、無限ループになりそうなのでやめておく。
「ええ、一段落したら。」
「…徹夜はするなよ?必ずベッドには入れ。」
「はい。」
まだ成長期の娘を心配しているのだろう。気持ちはありがたく受け取って、部屋に戻る。
明日も朝から面倒な議会に出なければならない。睡眠を摂って、英気を養っておくべきだとは思う。
けれど、今日は、今晩は眠りたくはなかった。
雷鳴が聞こえる。
少しの間瞼を閉じるだけでも、濃密な水の匂いと腹の底を揺らす雷鳴で、あの日を思い出してしまいそうだ。あの島を、あの人を。
ああ、今日はそうなのか。あの人の―ロシナンテの誕生日だったのか。
遠い記憶だ。もう声は思い出せない。ただ一人、多くの傷だけを残して、死んでしまった。哀しい人。強い人。
雨が窓を打つ音が聞こえる。風が強くなってきた。ドレスローザの空は、誰の心を写し取っているのだろう。