短編 | ナノ

とある白ひげの超電磁砲

腹部を通過した弾丸に、エースは短く悲鳴を上げた。

「おいメルセデス!当たってる!!」

エースでなければ死んでいた、そんな思いを込めて抗議するが、当の本人は飄々と抜かした。

「お前なら問題ない。」

「いやいやいや!?」

「それにこの状況じゃ誤射の1つや2つ…」

そう言いつつ、メルセデスは第2射を実行する。今度は味方に掠りもせず、正確に敵の脳天をぶち抜いた。

「できるじゃねえか!」

「はは、まぐれだ。」

しかし第3射、第4射ともに敵に命中。なんで俺は当たったんだ!?

「お、敵さんちに渡れるみたいだぞ。そぉれエース行ってこい。」

ほれほれとメルセデスが指し示すように、敵船が白鯨の近くに迫っていた。既に何人かは向こうの船に渡って戦闘を開始している。

「お!?ホントだ!行って来る!」

「行け行け。」

敵中を突貫するエースを援護するように、メルセデスの手から弾丸が次々と放たれる。やっぱり味方には当たらない。あれ、やっぱなんで俺だけ当たったんだ!?



「あァ、メルセデス、ちょっとこっちで砲撃の手伝いをしてくれないかい?」

エースを援護するため弾丸を撃ち続けていたメルセデスに、イゾウがそう声をかけた。しかし尋ねられたメルセデスは、不満そうに唇を尖らせる。

「砲弾は重いからやだな。」

「まァまァそう言わず。」

一発だけでいいからさ、とイゾウがメルセデスの腕を引く。それに従い、ぶつぶつと文句をこぼしながらもメルセデスは船室へ潜る。

程なくして、白鯨から放たれた超高速の砲弾が敵船のマストをへし折った。



「なーんでメルセデスはいつもいつもいっつも俺を誤射すんだ?」

無事に敵船を沈め、この調子だと明日の甲板は惨劇だろうなと予想されるほど賑やかな宴の中でエースはそう尋ねた。

「意図的に誤射してるんじゃないぞ?」

「嘘付け!!」

自分に非はないと暗に告げるメルセデスにエースは反抗する。どう考えたって意図的だ。

「ホントさ。ほぉれ。」

ベルトからぶら下げている袋に手を突っ込み、小さな弾丸を取り出してメルセデスはそれを指に挟む。
次の瞬間、メルセデスの手は仄かに青白く発光し、加速された弾丸が海の方へ発射された。

「いやいや、それはどう頑張っても当たらないから!」

「…となると、撃たれたいのか?」

「ちげえし!!」

俺は誤射じゃねえのかって聞いてんだ!と口を荒らげると、無駄だよい、と二人の言い争いを眺めていたマルコが口を挟む。

「メルセデスは誤射しても大丈夫なやつは意図的に誤射するからねい。」

「えっそうなのか!?」

聞き返すと、ほんとだよいとマルコは首肯する。言いがかりだとメルセデスは否定した。

「俺もよく翼を誤射されるからねい。」

それもう誤射じゃなくて狙撃!とエースは戦慄する。たしかに彼の能力なら、高高度を飛行する鳥の翼でも正確にぶち抜けそうだが。

「まあコイツの本業は狙撃手だからね。」

また増えた。
メルセデスの肩に肘を載せ、イゾウがどっかりと座る。

「ああイゾウ、腕が痺れてるんだがどうしてくれる。」

「そりゃテメエの能力じゃないのかい?」

メルセデスは確か…ビリビリの実の能力者。ゴロゴロの実の下位変換だったはずだ。ゴロゴロの実よりも一層電撃に特化した能力で、メルセデスはなんたら力とか―まあよくわからない原理を用いて"レールガン"として武器にしている。つまり彼自身が銃。

「でもメルセデスの弾ってくっそ早いよな。」

「そりゃあ、そういうものだからね。」

機嫌が良いのかもう一度実演して見せてくれる。それを見て、ふと思いついたエースは空き瓶をいそいそと甲板の端に並べた。

「んじゃあ、瓶と瓶の間をぶち抜いたりできる?」

「…おや、今の話の流れは弾速についてじゃなかったか?」

精度についての話じゃなかったと思うけどね、そう零しながらメルセデスは指を構える。

「ところで、これが成功したら何かくれるのか?」

尋ねられたエースは、滅多にないメルセデスからの要求に驚きつつも、そうだな、と酒の入った頭で考える。

「じゃー酒おごってやる!」

「ほう、それはそれは。」

頑張らないとな、そう言って一転、メルセデスは下手したら戦闘中でも見れないほど真面目な顔で的を見つめる。

あいつ大酒飲みだぞ、とマルコが囁いた。マジかよ知らねえ!

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