貴女の下僕になりたいの
※これを書いてみた「…で、今回はどうされたんですか?」
足を踏み入れた部屋に散らばっていた無残な死体に目をやり、困ったように少年は苦笑を浮かべた。
「何かお気に障ることがあるのなら、僕が先に手を下しましたのに。」
とりあえずこの惨状をどうにかしよう。そう考え、少年は幾人かの使用人を呼び、自身はこの状況を作り上げた本人―そして彼の母親である女性の元へ歩み寄った。
「どうされたんですか?お母様。」
いつの間にか彼の身長は母親を越えており、少し背を屈めて、彼は母親の顔をのぞき込んだ。
「…大したことじゃないわ。」
「そんなことはないでしょう?」
こんなに酷いことをなさって。口ではそう言うが、特に少年は酷いなどとは思っていない。彼の優先順位は一に母親二に母親。三四五も母親でようやく六に自分といったところだ。
「どうされたんです?お母様を悩ませるものなど、僕は許してはおけないんです。」
さあ話して、と言わんばかりに少年は母親の両手を握る。じっと母親を見つめる紅い双眸には、親譲りの激情が揺らめいていた。
「…、私の―」
息子に促されて、彼女は口を開く。
「私の―!!私の名前に、この、ドンキホーテ・ドフラミンゴの名前に、泥を塗ったのよ!こいつらは!!」
訳を聞けば、彼らはドフラミンゴが運営する"職業安定所"で"ミスをした"のだという。なるほど、と少年は察する。
「それはこいつらだけですか?」
「いいえ、まだいるわ。でも来てないだけ。」
どうやらここに血溜まりを作っていた彼らは、代表してドフラミンゴに謝罪に来たのだという。だが当然彼らが許されることはなく、残りも生きてはいられまい。いや、生かしてなど置かない。少年、メルセデスにとって、母親の安寧こそが至上命題なのだから。
「来ないなら、こちらから出向けばいいだけの話。ですよね?お母様。」
唇を歪めて少年は言う。その目は、曖昧な言葉よりも雄弁にものを語っていた。
ドフラミンゴはしばし息子を見つめて、その真意を推し量る。彼女もなかなかだが、息子はそれ以上に怒り狂っているらしい。最も、ドフラミンゴの怒りが自尊心に由来するのとは反して、彼の怒りは不安や嫉妬といった感情に由来するのだろうけれど。
「…ええ、そうね。行ってやればいいのね。」
「ああ、お母様がわざわざ出向かれずとも、僕が代わりに行きますよ。」
行ってどうするのか。そんなもの、決まっている。―皆殺しだ。母親の名を傷つけたものなど誰一人として許しはしない。
「すぐに終わらせます。ですから、お母様はここで待っていてくださいね。」
約束ですよ、と結び、メルセデスは母親の手をとってその甲に唇を落とす。一瞬だけ、少年は騎士だった。だが次の瞬間、彼は刺客として踵を返したのだった。