二項対立
ところで、スナスナの能力とイトイトの能力がぶつかりあったらどちらが勝つのだろうか?
自然系と超人系であることを考慮すると自然系であるスナスナの実に軍配が上がるか?しかし、スナスナの能力は水に弱いという致命的な弱点が有り、さらにイトイトの能力者である父親は覇気使いである。悪魔の実の能力以外を考慮にいれるのは野暮だが、能力者同士の戦いを想定すると覇気も当然用いられるだろうからこの際ありとしよう。能力者としての純粋な強さを鑑みても、父親は覚醒まで至っているのでその点では有利だ。さて、結局どちらが勝つのだろう?
メルセデスはそんな半ば現実逃避的な思考をしながら、目の前の現実を眺めていた。―父親とクロコダイルが向かい合って座っている。とりあえずコーヒーだけだして退出しようとしたら父親に止められた。こんな、一触即発状態の空気が満ち溢れている部屋に娘をとどめ置くなんて!酷い父親である。
「―で?そのオークションとやらに協力しろと?」
「ああ。勿論分前はやる。どうせ暇してんだろ?」
クロコダイルが紫煙を燻らせる。なるほど、次のオークションの話か。そこそこクロコダイルの興味を引く話であるらしく、彼が立腹する様子はない。
「それで、今回出される商品が…ん?」
机上の資料をいじっていた父親が訝しげな声を出す。もしかして、ないのか。確かファミリーが関わる事案は全て父親の部屋で取り扱っているはず。
「取ってきましょうか?」
留め置かれたものの手持ち無沙汰だったので、これ幸いと手を上げる。が、当の父親に遮られた。
「いや、俺の机にあるからお前にはわからねえだろ。」
俺が取ってくる、と言い残し、ドフラミンゴは早足で部屋を出ていく。その背中を見送ったメルセデスは、そこで自分がクロコダイルと二人きりで部屋に残されたことに気づいた。慣れない相手―それも恐らく重要な取引相手―と二人きり、これはどうすれば。何か話すべきか?
「おい。」
「はい?」
悩むメルセデスに、ドフラミンゴのそれよりも低い声がかけられる。振り返って返事をするメルセデスに、クロコダイルは不機嫌そうに灰皿、とだけ告げた。
「ああ、失礼しました。」
そうだ、葉巻を吸っているのになぜ気付かなかったんだろう、と自省しながらメルセデスは来客用に備え付けられている灰皿を一つだし、軽く拭いてクロコダイルの前に出した。ようやく、といった感じでクロコダイルは灰を落とす。固まって落ちた灰にメルセデスは微かに目を見開いた。メルセデス自身は喫煙はしないのだが、確か高級な葉巻は灰が固まって落ちると聞いた覚えがある。さすが七武海、いいものを使っているらしい。
感心するメルセデスに、クロコダイルはおい、とまた声を掛けた。クロコダイルは沈黙が嫌いなんだろうか?
「お前、確かドフラミンゴの娘だな?」
「はい、メルセデスです。」
「―血は繋がっているのか?」
思わぬ質問に、メルセデスは目を丸くし、ついで憤った。まさか養子だとでもいうのか、この、私が?
「ええ、勿論。」
「そうか…」
少し語気を荒げて言うと、クロコダイルは静かに納得の返事をしてから一度、葉巻を吸う。
「怒らせたか?」
「少し怒りました。」
「正直だな。そういうところが似てない。」
あの男の子どもだとは到底思えないな、とクロコダイルは笑う。反面教師にしてるんです、とメルセデスはむきになって返した。
「いや、本当はあの男がついに小娘を囲ったのかと疑っただけだ。」
「それもそれで…どうかと思いますが。」
「美人には邪な想像をしてしまうものでね。」
からかうように―と言うより本気でからかわれているのだろう。遊ばれてる、と気づいたメルセデスは押し黙った。―が、そこに運悪く父親が戻ってくる。クロコダイルの最後の発言をしっかり聞いたらしく、その視線はクロコダイルに据えられていた。一方のクロコダイルは余裕の表情だ。
「人んちで人の娘口説くとはどういう了見だ?」
「冗談だ。そんなことも分からねえのかお前は。」
一気に空気が悪化した室内で、メルセデスはイトイト対スナスナからどう二次被害を受けず逃げるかを必死でシュミレートしていた。