Keep on your eyes.
※ドフィ左目ない説に基づいてます。その光は、いつ、どのようにして失われたのだろうか。
中身のない瞼を親指で撫でると、くすぐったいのかドフラミンゴは小さく笑った。
きっとここにはまっていたであろう、メルセデスと同じ赤色をした眼球。故意に奪われたというその事実には怒りを覚えるし、どれほどの痛みを伴ったのか想像もできない。ただ一つ言えるのは、今度はそんなことはさせない、ということ。もっとも、2度目はないだろうけれど。
「そんなに見るな。楽しい物でもねえだろう?」
「あ、ええ…はい」
ぺたぺたと触れていた手を離すと、父親はその左目を隠すようにいつものサングラスをかけた。とはいえあくまで正面からは隠せるのであって、側面から見たらその左目の様子は丸分かりなのだが、いいのだろうか。せめて義眼を入れてみればいいのに。そう言うと、父親は少し思案してから言った。
「いらねえ。」
「どうしてですか?」
見えるようになるわけではないが、見た目は少し改善されるはずだ。なのに、なぜ?
「こうやって残しておいたほうが、過去の屈辱を忘れずに済むだろ?」
臥薪嘗胆だ、と言う父親を、娘はじっと見つめた。正確には、その空っぽの眼窩を。ああ、きっと父親がこれまでに体験した苦悩は、全てこの眼窩に収まっているのだ。失われた眼球の代わりに。
「お父様がそれでよろしいのでしたら、いいですけど…」
受けた屈辱を忘れない、というのは強くなるためには―特にドフラミンゴのようにプライドの高い人間ならば、必要なことかもしれない。でもそれは過去に囚われていることと同義ではないのか?
何か恐ろしい予感が背筋を這い上がった感覚がして、思わずメルセデスはドフラミンゴの手を握った。表情を曇らせた娘に気づいたのか、ドフラミンゴも手を握り返す。―一瞬、ドフラミンゴがここではないどこかに行ってしまうような気がしたなんて、言えない。