短編 | ナノ

ウェヌスのえくぼ

※R-15ぐらい

オールドキングがシャワールームから出ると、彼の愛しの共犯者は床に座りこんで端末をいじっていた。機嫌が良いのか鼻歌も聞こえる。

「上機嫌だな、首輪付き。」

背後から近寄って抱きすくめると、そこでようやくオールドキングの存在に気づいたらしい首輪付きは、笑顔で端末を示す。

「ああ、オールドキング。見てよこれ。」

表示されていたのは企業連が彼ら2人の首に懸賞金を掛けた、というおおよそ上機嫌になるようなニュースではなかったのだが、首輪付きは嬉しそうに液晶を撫でる。

「これでお前の望みは叶ったか。」

この男、首輪付きと呼ばれる少年の行動原理は実に単純である。自分のことを知ってほしい。名もなく親も知らない劣悪な環境で育ったせいか、一度ネクストという強大な力を手にしてから、彼の自己承認欲求は留まるところを知らない。自分を知ってほしい。そのためなら1億人を空から叩き落とすことすら躊躇しない。

「うーん、まだもう少し足りないかな。」

―強欲め、とオールドキングは唇を歪めた。1億では足りないか。

「クレイドルなんざ腐るほどある。次はどこに行く?06か?」

「どこでもいいけど、手っ取り早く近場から落としていこうか。」

その言葉には微塵の躊躇もない。2人の大量虐殺犯はお互いに視線を合わせて笑い、どちらからともなく口付けた。幾度か口付けを交わす間に、オールドキングは手を首輪付きのシャツの中に差し入れ、薄い胸板を撫でる。

「ん…ちょっと、そっちは」

「今更。処女でもないだろう?」

お前とテルミドールができてたことは知ってるぞ、と言外に匂わせると、首輪付きはその目を少し見開き、ついで口角をゆるりと上げた。

「何、寝取ったつもり?」

「お前が浮気したんだろう?」

「ええ、おれのせいなの?」

もう片手を背筋を撫でる方に回すと、首輪付きは大きく体を震わせた。なるほど、こっちの方がよく感じるらしい。

「恋人を裏切って他の男についてきた気分はどうだ?」

「んっ…悪くない、かな」

悪い男だな、と耳元で囁やけば、首輪付きは喉を鳴らして笑った。

「ねえ、するならベッドに行かない?」

「ああ?このままでいいだろう?」

「さすがに床は嫌かなぁ」

ほらほら運べ、とばかりに首輪付きが細い腕をオールドキングの首に回す。傲慢な山猫だ、唇を歪めつつ首輪付きを抱えあげると、オールドキングの腕の中で首輪付きは嬉しそうに目を細めた。

「愛してるよー、オールドキング。」

「重みがないな。」

「そんなもの欲しい?」

「まさか。」

首輪付きとオールドキングは揃って笑い声を上げる。これでいい、俺の共犯者ならばこうでなくては。

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