長編 | ナノ

7

ざわめいていた会場が一変、水を打ったように静まりかえる。
誰もみな、呆気にとられているのか、呼吸音すら聞こえない。
そんななか、ネアは傍らのナミを見やる。彼女はその目を大きく見開き、握られた拳は震えていた。

絶望的な状況だ。

「なあ、なんとかなんねえかな。サンジ、ナミ!」

チョッパーが悲痛な声を上げる。

「こんなのねえよ、金で友だちが連れてかれるなんてやだよ!こんなの…」

一人の魚人が力づくで、と言い出したが、もう一人に静止される。あの首輪が最大の障害であるのは目に見えたことだ。

「…どうしても彼女を救わなければならないんですか?」

そっと問いかけると、ナミはまた目を見開き、その目に少しの怒りを滲ませながら叫んだ。

「当たり前よ!だって、ケイミーは大切な友だちだもの!」

そういうものなのだろうか。
聞けば、彼女たちは出会ってさほど日も経っていないという。
"友だち"。それは、"家族"とは違うものであるらしい。例えるなら、今のナミとネアのようなもの。

そこに賭ける価値とはいかほどのものか。

一度ナミから視線を外し、静まり返った会場を俯瞰した。そこにいる誰も彼もの視線を集めている、あの、人魚。

―"友だち"。

これから起こす行動は、父親に相当きつく叱られそうだ。裏切りとは見なされないことは明白だが、かつてこれほど父親の意向に背いたことはない。一人で歩き回ったうえ、それ以上のことをしでかそうとしている。

ああ、とても楽しそうだ。

「あなた達、とても面白いですね。」

微笑みながらそう言うと、何を言っているのかと困惑した視線がいくつも刺さった。

「まあ天竜人の態度も癪に障りますからね。彼らの妨害をしてやるのもいいかもしれません。」

ナミの手から、番号札を抜き取る。
司会が終了をコールする前に、これみよがしに高く掲げて、すうっと息を吸って、一つ。

「10億」

再び静寂が会場を満たす。
今度は自分に、全観客の視線が集まる。
普段人前に出るのは父親であるので、こういった状況は不慣れであるのだが、出来るだけ余裕があるように繕う。

「じゅっ…10億って、なに、ネア、本気で言ってんの!?」

驚愕に打ち震えるナミに、ネアはええ、と応える。
大きく出たが、父親の馬鹿馬鹿しいほどの財力を考えればそう厳しいものでもない。万一拒否を示されたなら、ちょっと偉大なる航路に出て海賊を50人ほど縛り上げればいい話だ。懸賞金2000万の首なんて軽いものだ。

「さほど問題はありません。お父様に頼めばこのくらい。」

お前の父親は何なんだ、とサンジに質されるが黙秘を貫く。流石にここでばらすことではない。
さて、あの傲慢で醜い天竜人はどう出るか?

VIP席から言い争う声が聞こえる。どうやら予算がどうと話しているらしい。ほう、あの大量の天上金を受け取っておきながら、10億程度も出せないのか。

黙って会場の行く末を見守っていると、司会が終了を今度こそコールしようとした。ガベルを振り上げて、叩こうとした瞬間、

轟音が響いた。

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