長編 | ナノ

6

ステージ上で倒れた海賊船の船長に、観客の視線が突き刺さる。

「いま…どうしたの?」

「舌を噛んだ。今ここで死ぬことを選んだんだ。」

なかなか度胸のあるやつだ。最期にそれを発揮するとは。もっと生きている間に頑張ればよかったものを。
にしても、嫌な流れだ。この空気を払拭するために、商売人たちが考えそうなことはといえば。

「…あの、ナミさん。そろそろ人魚が来るかもしれません。」

耳打ちするように言うと、驚いた顔がこちらを向く。それもそうだろう。オークションは後半に差し掛かっているとはいえ、まだ商品は随分残っているはずだ。

「今の会場は、一気に購買意欲が失せています。彼らの至上命題は商品を売ることですから、ここで観客の注意を引いておきたいところでしょう。」

それに、あまりに焦らしすぎると、手持ちの金を使い果たしたという客も出てくる。そうなっては競りにならない。できるだけ値段を釣り上げるためにも、そろそろ持ち出してきていい頃合いだ。

予想通り、目玉商品がコールされた。真っ白い布を被った台車。ここを頻繁に訪れるものなら分かるであろう、人魚用の特別措置だ。

布が取り払われ、人魚の姿が顕になる。若い女性。会場の熱気は最高潮だ。

ナミの横に立っていた―おそらく魚人であろう二人が、必死に名前を呼んでいる。はっちゃんと呼ばれている方はともかく、あのヒトデはどう見ても魚人なのだが大丈夫だったのだろうか。

「よーし、奪い返すわよ!うちには2億あるんだからね。」

2億とは、なかなかだ。
だが、若い女性の人魚の最低落札価格は7000万ベリー。最低価格というのは、体のどこかに傷があったり、売られるのが2度目以降である場合だ。ここ最近人魚が出品されていなかったことや、無駄に財力はある天竜人がいることを考えると、少し足りないような気もする。

あちこちから番号札を握りしめる音がする。皆、人魚を落札したがっている。観客の購買意欲を煽るという点において、この作戦は成功を収めたと言っていい。

「さあ、いくらからまいりましょう?」

司会も興奮気味だ。この人魚一人で、今日の売上の何割にも達するだろう。

だが、そんな空気をぶち壊すように、品のない声が響いた。

「5億!5億で買うえー!」

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