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数々の"商品"がステージ上に引き出され、競り落とされていく。
それらは皆一様に絶望した目をしていて、興奮気味の観客との差を浮き彫りにする。
人であれ魚人であれ、海賊であれ平民であれ、捕まってしまえば終わりなのだ。
人魚はまだなのかと聞かれ、もっと後だと答えた。ここでは一度に100人を超える人間が売り買いされる。
「100人…てことはそれだけ人攫いもいるってことか」
「オークションだけで100人出品されるのですから、他に人間屋があることを考えると相当数の人攫いがいるのでしょうね。」
サンジが胸糞悪ィ、と吐き捨てる。すぐ近くの島に海軍本部があるというのに、世界で最も治安が悪い島はここであるような気さえする。
順繰りに競り落とされていく人間たちを複雑な心境で眺めていると、すぐ後ろの扉が開く。
観客は皆途中で入ってくるとは何事かと言わんばかりに振り向くが、その姿を目に捉えたとたん顔を背けただろう。そこに現れたのはこの世の頂点にしてこの世のクズの塊だ。
勿論、ネアは振り向きもしなかった。目が合うだけで何を言われるかわからない。面識のある天竜人などいないが、面倒ごとの芽は摘み取っておくに限る。
ふざけた口調で通路を降りていく天竜人から逃げるように観客は身を縮こまらせる。馬鹿馬鹿しい。先ほどまで笑顔でオークションに参加していたくせに、自分が奴隷になるのは嫌だというのか。
「天竜人もここに来るのか…」
「一体どうなってんだ、ここって…」
政府公認の職業安定所です、などとは到底言えず押し黙る。彼らが言いたいことは分かる。世界の常識では、彼らが思っていることが正しいのだろう。だが、ここは無法地帯な上治外法権に近い。権力と強さが物を言う、極めて原始的な場所だ。
「それにしても、あなた達の船長はいらっしゃらないのですか?」
彼らの思考を方向転換するためにそう尋ねると、彼らは同じような苦笑いを浮かべた。
「大方、方向音痴のゾロを探し回ってんじゃない?」
方向音痴?
まさかこの至極わかりやすい島で方向音痴?
冗談だろう、と彼らの顔を見るが嘘ではないようだ。そんな馬鹿な。
「何やら大変なようですね」
「そう、重症なの…」
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