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白ひげが、世界最強の男が動き出した。傘下の海賊たちも次々に攻勢に転じる。対する海軍は、明らかに気圧されてはいたが、戦略的撤退の姿勢をみせた。彼らが退くのなら、同じく海軍側のネアも撤退に移るべきだろうか。あのセンゴクのことだ、白ひげが動き出したのを見てまた新たな策を展開する可能性は高い。相対していたクロコダイルも突入を敢行したようだし、ここに留まっている理由もない。
そう判断を下して、ネアは足を処刑台のある方へ向けた。白ひげの動きを確認すると、ちょうど海軍と対峙したようだ。大多数が意識をそちらに向けている間に海賊の間をすり抜けるなど造作もないことだ。足の速さには自信がある。
ネアが石畳に足をかけたところで、突然地面が傾いた。
「―っと…!」
慌てて剣を石畳に突き刺して支えとする。状況を見る限り、どうやらこれを仕掛けたのは白ひげらしい。何という力だ。空間ごと歪ませたのか。
「おいおい、大丈夫かネア。」
聞き慣れた声に顔を上げると、半時間振りほどか、父親の姿が見えた。彼も同じく傾いた地面に立っているのだが何かに掴まっている風でもない。能力を使っているのだろうか。
「大丈夫です、お父様。ああ、申し訳ありません。クロコダイル様を取り逃がしました。」
即座に自分の失態を詫びるが、特に父親は意に介してはいないようだった。
「気にするな。あの状況じゃ何もできねえだろ。」
それよりも、今の状況のほうが面白そうだ。
そう言って笑う父親の傍に寄る。湾の方を見れば、何やら巨大な壁が海中からせり上がってきていた。
「な、何です、これ…」
余りの規模に絶句する。こんなものが仕掛けられていたのか。これが海軍本部。この小さい島はもはや要塞と呼んでもいいだろう。これで退路を断つつもりか。流石は歴戦の名将センゴク。
海賊たちもその壁が何なのか気づいたのか、突破口を開こうとする。ここで引き下がらないあたり、彼らに退却という文字はないらしい。さて、彼らは退路を断たれてどう動くのか。
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