長編 | ナノ

18

どこからか飛んできた斬撃が、湾をぐるりと囲んでいた氷津波を切断した。斬撃が飛ぶ?冗談じゃない。
さすがは七武海、もはや同じ人間とは思えない。人間…?あの鷹の目に比べれば、覚醒した能力者である父親も、大監獄から脱獄を果たしたサー・クロコダイルもまだまだ真っ当な人間といえるだろう。

その分類上"真っ当な人間"である二人は、間に白ひげ海賊団の隊長をはさみつつ何やら物騒なやり取りをしているが。案の定最前線であったことに溜息をこぼしながら、ネアは海賊の怒涛を切り払っていた。怪しい雰囲気である父親を気に掛けることも忘れない。

「…お前と俺が、手を組む?」

冷え冷えとした声音には、明確に拒絶の意志が漂っていた。
それにしても、父親がクロコダイルのことを買っているのは知っていたが、まさか同盟とは。かつて一大海賊団を率いた頃の彼ならともかく、脱獄直後で文字通り身一つの彼を誘う利はあるのだろうか。

だがそんな娘の心配もよそに、ドフラミンゴは熱心に勧誘を続ける。なんだかいつもにもまして饒舌だ。特に、この戦争の火蓋が切られてからは。

「消えろ、フラミンゴ野郎!砂嵐!」

しかし、やはりと言うべきか、交渉は見事決裂したらしい。父親も、踏み台にされていた海賊も砂嵐に姿が消える。まさかあの父親がこの程度で倒されるとは思ってもいないが。

案の定、砂柱の更に上に、特徴的なピンクの羽毛が現れた。

「もっと話の分かる野郎だと思ったんだけどなぁ…ネア、やれ。」

「はい、お父様。」

クロコダイルの瞳がこちらを捉えるより早く、間合を詰める。右手に帯びた剣に左手を添えて、勢い良く振り抜いた。彼は自然系だからそれで避けられると思ったのだろう。甘い。小娘は覇気が使えないなど誰が決めた?

確実に入った、はずだが、食いこんだ刃先がまだ浅い内に左手の鉤爪に受け止められる。さすがの反射速度だ。

「ドフラミンゴの娘か…!」

「ええ。お久しぶりです、クロコダイル様。」

返答しつつ、また一歩踏み込み、再度剣を向ける。今度は初めから鉤爪で受け止められた。硬い。

「クソ迷惑な親子だな、お前らは。」

「それはそれは。申し訳ございません。」

何合か打ち合わす。間合いではこちらが有利だが、彼は能力持ちだ。氷の上でも砂の能力を発動できるとは。でも。

「砂嵐!」

海が背になるように飛び退く。この小さな島では、昼時には確実に海風が吹く。砂嵐は風に左右されるものだ。ここが彼の独壇場とも言える砂漠ならともかく、砂の少ない島であるからこそ、風上は絶対的有利だ。

砂埃が晴れるタイミングを見計らって、武装色の覇気を纏わせた剣を投擲した。砂嵐の欠点は多い。その一つが、視界が遮られるということだ。このままうまくことが運べば、砂嵐が晴れると同時に彼の前に現れる投擲剣。無論、武装色付きだから、間違いなく彼の体を引き裂くはずだ。うまく行けばの話だが。

さて、吉と出るか凶と出るか。

だが、そんなネアの期待は、誰も予想だにしない形で裏切られることとなる。

前へ 次へ