長編 | ナノ

17

先ほど降ってきたのは麦わらのルフィ率いるインペルダウン脱獄囚達らしい。麦わら。シャボンディ諸島で少しの間同行しただけだが、まさかインペルダウンから脱獄してくるとは。そういえばあの後大将黄猿が派遣されたはずだが、やり過ごせたのか。底知れぬ可能性に思わず身震いをする。願わくば彼と敵対せずに済みますように。既に敵として相対しているが。

父親は彼らの落下地点を目指すのかと思えば、しばし足を止めて処刑台の方へ歩きだした。何がしたいんだ。ふと前を見れば、"暴君"がいた。いや、正確にはその成れの果て。

「あァ、こんなところにいたのか、PX-0。」

どうやら父親は、これを探していたらしい。

どうにも身長のせいでいい目標になるのか、周囲を敵に囲まれる。とはいえ所詮は雑魚、剣を何往復かさせると、瞬く間に敗者の山が築き上げられた。
それに目をつけた父親が山に座る。服が汚れてしまうが、その傲慢で残酷な雰囲気は父親によく似合っていた。山を作ったのは娘だが。
頂上で父親は足を組み、じっと目を凝らしているようだった。また、何かを探している。

「くま!ヴァナタ、こんなところにっ!?」

―な、な!?
なんだか随分と濃い人が出てきた。
父親の謎めいた態度よりも、そっちのほうがよほど気になる。全体的に濃い。一目見たら間違いなく忘れられないだろう。

強烈な個性にぶん殴られたネアが硬直していると、不意に腕を引かれる。そのままよろけるように後退すると、つい先程までネアが立っていた場所をレーザー光が通過した。

「よそ見してる暇はねえぞ?」

「え、ええ。ありがとうございました。」

しかしあの奇抜な外見はどうも目を引かれて仕方ない。新手の囮だろうか。

「くまが死んだ…?そんな、」

彼女(彼?)はドフラミンゴの言葉に絶句していた。見た目に変化はないから、なかなか認められないのだろう。だが、ここにいるのはくまの形をした自律兵器に過ぎない。茫然自失とした彼女に、底抜けに明るい声がかけられる。

「あっ、イワちゃん!…と、お前!シャボンディん時の!」

名前は覚えてもらえなかったらしい。
ネアです、と返すと、そうだそうだった!と笑顔で返される。

「あん時はありがとな!」

「え、ええ…」

なんだか毒気を抜かれる。一応敵なのだが。
戦場らしからぬ会話に、父親から知り合いかと尋ねられる。彼が麦わらですよと耳打ちすると、父親は不思議そうに麦わらを見た。

「"麦わら"…てめえがクロコダイルをやったっていう野郎か。」

「おう、そうだ!」

自身たっぷりに答える様子に、父親が抱いたであろう疑念は霧散したらしい。明らかに格上であろうドフラミンゴの前でこれだけ堂々としていられるのは大物の証だ。

「そういやあの鰐野郎もインペルダウンから出て来てたな…」

麦わらもイワンコフも前進するなか、父親は逆走するつもりらしい。その目は、白鯨のそばに立つ砂嵐を見据えていた。

「いい面子が揃ってきたな。」

「行くんですか?」

流石にあの近辺は総大将を守るため隊長クラスが多そうだし、できれば遠慮したいのだが、父親は気にする素振りも見せない。

「ああ、行くさ。久し振りに鰐野郎の面でも拝んでやるか。」

再び砂嵐が沸き起こる。彼は覚醒していなかったはずだが、さすがは元七武海。随分と能力を使いこなしているようだった。

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